【開催報告】12/1NPO法施行日記念フォーラム 「NPO法と政治活動についてあらためて考える」を実施しました。

 2015年12月1日、NPO法施行日(1998年12月1日)から17年が経過する節目の日に開催しました、「NPO法施行日記念フォーラム~NPO法と政治活動についてあらためて考える~」の実施記録を掲載します。

 このフォーラムは、NPO法の立法経緯や同法の理念と趣旨、「NPOと政治活動」に関する諸規定への理解を深め、NPOによる政治活動・政策提言活動の意義を議論する機会を設けるために、シーズ・市民活動を支える制度をつくる会と共催したものです。

 フォーラムにはNPO法人/公益財団・社団法人/一般財団・社団法人/社会福祉法人などの多くの非営利セクター関係者のほか、研究機関や報道機関、企業など計72名の来場があり、さいたま市の出来事が与えた波紋の大きさ、非営利セクターの方々の関心の高さを物語っていました。
 開催後のアンケートからも継続的な開催や他地域での開催を望む声が多く、このフォーラムを契機とした「NPOと政治活動」に関する議論が全国各地で深まることを期待しています。日本NPOセンターも引き続き全国のNPO支援センターとともに、議論の場づくりに注力していきたいと考えています。

 今後の、そして全国での活発な議論に資するため、詳細の発言記録・配布資料を掲載します。当日参加できなかった皆様とともに、また参加された皆様ともいま一度、NPO法と政治活動についてあらためて考えたいと思います。

(文中敬称略)

NPO法施行日記念フォーラム「NPO法と政治活動についてあらためて考える」
日時:2015年12月1日(火曜日)13時30分~16時30分
会場:東京国際フォーラムガラス棟G701会議室


【総合司会より】
(特定非営利活動法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会:常務理事・事務局長 池本桂子)
1998年12月1日にNPO法が施行され、本日で17年を迎えました。ここで改めて、「NPO法と政治活動についてあらためて考える会」を開催します。
今日は100名程の方にご参加いただき、ありがとうございます。
これから登壇される方の参考になるように、皆様の属性について挙手でお伺いします。
まずNPO法人の方はどの位おられますか?・・・ほとんどNPO法人ですね。
その中で認定NPO法人はどの位おられますか?・・・結構居られますね。羨ましい。
公益法人の方は居られますか?・・・数名です。
行政の方は居られますか?・・・お一人ですね。
政治家の方は居られますか?・・・本日は居られないですね
研究者の方も居られるようです。
本日はざっくばらんに忌憚の無い意見交換をし、登壇者の皆様には際どい発言も期待しています。それでは、主催者を代表して日本NPOセンター代表理事・早瀬昇より開会の挨拶をいたします。

【開会挨拶】

(特定非営利活動法人日本NPOセンター:代表理事 早瀬 昇)

皆様、年末の御忙しい時期にありがとうございます。今日の参加者は100名近くとのこと、NPO法と政治活動というテーマは本来地味なテーマであるはずが、今はホットイシューになっています。
今日は特定非営利活動促進法の施行から17年目。また、公益法人制度改革がスタートしてから7年目です。NPO法人に関してはこれまでにもいろいろな議論がありましたが、どちらかというと不祥事の話や、また一事業者でしかないのではないか、といった話がありました。
そんな中、たまたま、さいたま市議会の例の議決があったことが、かえって反作用のように「市民活動にアドボカシーという大切な要素があり、それは一体どういうものか?」という議論になっているように思います。
今日はさいたま市議会の議決そのものについて採り上げると、いわゆる指定管理者制度の話になってしまいます。今問われているのは、市民活動が政治的な自由をどのように確保し、これは表現の自由・集会の自由にも関係すると思いますが、そういった活動をどう進めていけるのか、そういった社会をどう作るのか、ということに関係する議論をしていく方が良いのではないかと思います。

そもそもNPO法の施行日とは、1898年に民法が施行された際の公益法人の許可主義、つまり政府のお墨付きが与えられる組織しか公益法人にしないという制度を、その100年後に変えた日です。公益活動を行う法人が、色んな意味で政治的な権力からも自由に活動を始めることができるようになった日であったはずです。
『世界を変える偉大なNPOの条件』という本が数年前に翻訳されましたが、同書の一番初めの部分で最初に挙がた条件が、「政策アドボカシーとサービスをともに提供する」ということです。そのようなものを守るためにも、社会を良くするためにも、今日のフォーラムの中でディスカッションしたいと思います。

【基調講演】
NPO法と政治活動:立法過程における「政治上の主義」と「施策」の峻別の経緯と意図

(特定非営利活動法人日本NPOセンター:顧問 山岡 義典)

17年という月日が経ち、NPO法施行時に生まれた人は17歳、来年から選挙権があるという時代です。NPO法がどういう経緯でどんな議論をしてできたのかということを、これから投票する人たちにもしっかりと理解してもらわないといけない。そのためには、法制定の現場に立ち会った人が語り部として発言することも必要だということで、本日はお話します。
今日の話の7~8割の部分は、大阪ボランティア協会が発行し岡本仁宏先生が編集責任を担当された『ボランタリズム研究』の創刊号に掲載されている内容です。“政治とNPO”に関する岡本先生や私の原稿、ほか様々な論文が掲載されていますので、もう少し深掘りしたい方は、ぜひそちらをお読みください。

まず、NPO法における政治に関する規定は、第2条と第3条にあります。
第2条第2項では、《この法律において「特定非営利活動法人」とは、特定非営利活動を行うことを主たる目的とし、次の各号のいずれにも該当する団体であって、この法律の定めるところにより設立された法人をいう。》とあります。定義として『やってはいけない』のではなく、こういったものが特定非営利活動法人である、認証の対象になるという形で定義されています。政治については、第2条第2項第2号ロに、『政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと。』と定められています。『主たる目的とするものでないこと』というのは、「従たる目的とするものであればいいよ」という風に理解してください。そして第2条第2項第2号ハに、『特定の公職(公職選挙法第3条に規定する公職をいう。以下同じ。)の候補者(当該候補者になろうとする者を含む。以下同じ。)若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対することを目的とするものでないこと。』と定められていますが、ここには「主たる」という文言がありません。
第3条第1項では、『特定非営利活動法人は、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として、その事業を行ってはならない。』、同条第2項では、『特定非営利活動法人は、これを特定の政党のために利用してはならない。』と定められています。
先程の第2条はNPO法にしかありませんで、NPO法でしかしっかり議論されていない文言です。それに対して第3条第2項に定める『これを特定の政党のために利用してはならない』との文言は、ほぼ同じ文言が多くの主要な法人制度に使われており、古くは1948年の消費生活協同組合法に初めて用いられた文言です。消費生活協同組合が政党のために用いられる可能性が非常に高いと、当時の政治家は考えたのでしょう。立法過程でどういう議論があったかはまだ調べていませんが、色々な議論があったのではないでしょうか。以後、商工会議所法、中小企業団体の組織に関する法律、商工会法など、様々な法人制度に同様の文言が使われてきました。地方自治法の中の認可地縁団体に関するところにも規定されており、多くの非営利の法人制度で使われてきた、ある意味で成熟した法律用語ともいえます。
『政党のために』ということですから、政党以外の政治団体なら良いのではないかとも思いますが、実際には裁判をしてみないと分かりません。第3条第1項は『特定の個人又は法人そのほかの団体の利益を』とありますから任意団体も対象となるかもしれませんが、それならば政党も対象に含まれるわけで、敢えて同条第2項を設ける必要はないのではないか?とも思いますが、やっぱり必要なのでしょう。

整理をしますと、これらは表現形態の違いといえます。『特定の政党のため』に利用をした場合には法律違反です。「特定の公職候補者の推薦等」については、『目的とするものでないこと』と定められていますから、組織の設立趣意書に書いてはいけません。しかし、たまたま自分達がやりたいことを実現するために選挙に関わることは良いと考えます。その証拠は、後でご説明します。「政治上の主義の推進等」については、主たる目的としてはいけませんが、従たる目的とすることは構いません。選挙は目的としてはいけませんが、政治上の主義の推進等は従たる目的なら良いのです。それに対して「政治上の施策の推進等」については何の規定もされておりませんから、やってもやらなくても良いのです。
従来から「政治上の主義の推進等」と「政治上の施策の推進等」は一体のものとして用いられてきました。政治資金規正法第3条第1項第1号では『政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対することを本来の目的とする団体』、また同第3号イでは『政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対すること。』を『その主たる活動として組織的かつ継続的に行う団体』を政治団体であるとし、同法の対象になりますよ、と定められています。このように従来は「主義の推進」と「施策の推進」が一体のものでしたが、これを切り分けて法律に定めたこと、ここにNPO法の大きな議論がありました。そのことを少し詳しくお話します。

その前に、これまでの話はNPO法人の認証に関することであり、認定NPO法人の条件となった場合には、内容が少し厳しくなります。第45条第4項イ(3)には、『特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対すること』を『行っていないこと』と定められています。逆に言えば、認定を受けなければ行っても良いということです。認定の条件として『行っていないこと』と明記されているということは、認定を受けていない団体は行っても良いということです。先日、新聞で政治献金を拠出したことが違法であるとの記事を読みましたが、この項目に関する限り、認定を受けていない団体であれば違法ではないと思います。毎年定常的に政治献金をしているような場合には、それを「目的とするもの」となり違法であると思いますけど。
認定を受けている団体についても、『行っていないこと』という条件が、いつの時期を指すのかなど、後ほど関口さんからグレーゾーンを明快に説明されるでしょう。ただ、認定を取ったら制限は厳しくなるということです。「政治上の主義の推進」も『行っていないこと』が認定の条件ですから、政治上の主義を主張し続けたい、従たる目的でもやっていきたいという団体は、認定を取ることができません。

NPO法の制定時の議論をお話します。1995年12月14日、法案が国会に出る直前の話ですが、与党NPOプロジェクトチームで市民活動促進法案の骨子試案を作成し、その中で『政治資金規正法第3条第1項に規定する政治団体に該当しないものでなければならない』という条文を作成していました。ここでいう政治団体とは、『政治上の「主義」も「施策」も本来の目的あるいは主たる目的とする団体』を指します。素直に政治資金規正法の条文を採り、その対象となる政治団体にあたらないものとして原案ができました。市民団体の中で行ったいろいろな議論や要望を受けて、1996年9月に与党3党の政策調整会議が開かれ、『市民活動の政治活動について』という項目において、『「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的としないこと。」を「政治上の主義の推進を主たる目的にしないこと。」と修正されました。つまり、「施策」については規制の対象から外しましょう、という思い切った重要な結論が与党で合意されたということです。ですから、法案提出の段階ではすでに解決した問題でした。
その内容について国会で議論がなされ、1997年5月29日、衆議院内閣委員会において熊代昭彦議員より、『政治上の主義というのは大変限定されておりまして、いわゆるイズムと言われるものでありますから、民主主義を守るとか共産主義を守るとか、そういう体制のあり方の根本にかかわるようなものを政治上の主義に関することと言っておりまして、政治上の一々の施策を推進するということは政治上の主義というものに入っておりません。施策を推進する活動は自由にやってください。ただ、イズムを実現する活動というのは政治活動そのものではないだろうかということで、一応除外してあるということでございます。』という重要な発言がなされました。
衆議院を通過後、参議院では名称変更等の法案修正の議論がなされ、再度の衆議院での議論では、衆議院内閣委員会において辻元清美議員より、『「政治上の主義」とは、政治によって実現しようとする基本的・恒常的・一般的な原理・原則をいい、自由主義、民主主義、資本主義、社会主義、共産主義、議会主義というようなものがこれに当たる。この政治上の主義と政治上の施策とは区別されております。ですから、政治上の施策の推進、支持、反対を主たる目的とすることは禁止されておりません。この政治上の施策とは、政治によって実現しようとする比較的具体的なもの、例えば公害の防止や自然保護、老人対策等というものと解されております。なお、主たる目的とするものであってはならないと規定されておりますから、政治上の主義の推進等であっても、これを従たる目的として行うことは禁止されておりません。』との発言がなされました。
参議院における選挙規定の修正も大きな影響がありました。原案第2条第2項第2号ハでは『するものではない』としていたところ、『することを目的とするものではない』と修正しました。『目的とする』ことはいけないけれども、たまたま推薦しましたということは良いのです。時間になりましたので、これで終わりにします。

【情報提供1】
特定非営利活動法人、認定特定非営利活動法人における政治活動等の取り扱いについて

(特定非営利活動法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会:代表理事 関口 宏聡さん)

本日はグレーゾーンについて攻めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。1998年にNPO法が施行された当時、私は14歳。まさか、自分がこのような場で話をすることになるとは思ってもいませんでした。今日の議論は、話の一部分を切り取られると誤解を招きます。様々な前提や内実が伝わらないと言葉が一人歩きしますので、どうぞご協力をお願いいたします。

さて、今日はNPO法施行後の運用実態や具体的事例を基に、NPO法人と政治活動との関係について、どこまでがOKでどこからがまずいのか、法律の条文からもう一歩細かい部分を皆さんと考えていきたいと思っています。もちろん私が正解を持っているわけではなく、NPO業界においても今後ガイドラインなり指針を作るべきとも思っていますが、この場で関口がOKと言ったからといって、実際に皆さんのNPO法人でやってみたら所轄庁から改善命令を受けてしまったとしても、私は責任を取れません(笑)。今日は皆さんで考えていこう、というスタンスでお聞きください。

では、早速ですが5分ほど時間を取りますので、お近くの席の方と自己紹介をお願いいたします。また、普段の活動における「政治」との関わり方など、思い付くことをお話しください。
後ほど《NPO法人と政治》というクイズをお出しし、NPO法人・認定NPO法人が次のような活動を行うことができるのかどうかを考えたいと思います。

1. 国会議員や地方議員、大臣、首長等に対して要望・陳情・請願活動を行った。
2. ある政策を推進・反対するために団体主催でデモ行進を行い、政府/与党・野党の政策(施策)を批判した。
3. 団体の理事長が選挙に立候補し、団体事務所の一部を選挙事務所として無償で貸した。選挙ポスターも掲示した。
 
では、時間を取りますのでお近くの方とお話ししてください。

※《参加者同士のディスカッション》

 それでは、皆さんのお考えを聞いてみたいと思います。お手元に「○」「△」「×」の札がありますので、それぞれ「○:問題なし」「△:グレー」「×:問題あり」として札を挙げてください。
まずは、認定を取っていないNPO法人の場合についてお聞きしたいと思います。
「1」について「○」だと思う方、札を挙げてください。全員ですね。△・×の方は札を挙げてください。居られないですね。はい、これはサービス問題でした。
では、「2」について「○」だと思う方、札を挙げてください。(会場の8~9割程が札を挙げる。)では「△」だと思う方、札を挙げてください。(若干が札を挙げる。)「×」だと思う方、札を挙げてください。挙げにくかったら無理に挙げる必要はありませんよ。
では、「3」について「○」だと思う方、札を挙げてください。(若干が札を挙げる。)ずいぶん少数派になりましたね。では「△」だと思う方、札を挙げてください。これも若干ですね。では「×」だと思う方、札を挙げてください。多いですね。はい、期待した通りの結果です。
皆さんもNPO法第2条・第3条・第45条についてはご存知だと思いますが、問題となるのは、その法令をどのように現実に適用するのかということであり、そこを中心にお話ししたいと思います。
さて、NPO法人における政治活動の議論は、大変混乱します。NPO法人の方は「役員報酬」に関する問題をご存知かと思いますが、NPO法、労働法、税法それぞれで「役員報酬」という言葉の定義が違うために、議論が噛み合わないことが多々あります。それと同じことが今回のテーマである「政治活動」という言葉でも起こっていると、私は考えています。
例えば、私を含めNPO法人の方々は、「政治活動」とはもともと政治資金規正法や公職選挙法から借りてきた概念であり、そこから「施策(の推進等)」を取り除いたものである、と思っていますが、逆に、政治家の方々から見れば、政治資金規正法などの方が自身に関わりのある主要な法律であり、NPO法で「施策」が規制対象から除かれているとは多くの場合で知らないわけです。あるいは、一般市民の方々からすれば、公職選挙法や政治資金規正法の方が一般的でしょうから、NPO法については詳しくなく、「政治活動」といえば政治的なものを全部含むのだろうと思ってしまうのが現状でしょう。
面倒ですが、発言者や主張者それぞれが、いったいどの法律における政治活動のことを言っているのかを丁寧に確認しなければ、結局は意味のない議論を延々としてしまうことになります。冷静で建設的な議論をするためにも、お互いの議論の土台を確認するべきです。

また、NPO法における政治活動の規定が絶対的・一般的なものでは決してありません。そもそも市民活動を規制する法律はありませんので、自由にやれば良いのです。市民活動団体が法人格を得るためにNPO法という法律があり、市民活動促進条例のような条例にはNPO法の規定がよく援用されますが、別にこうした条例もNPO法に基づかなくとも良いのです。もっと緩く、政治活動も良い、目的云々ではなく、政治・宗教はウェルカム、という条例があっても良いわけです。NPO法は大事な基準を打ち立てたとは思いますが、他の非営利法人の法律に比べて政治・宗教活動に大変厳しいことを認識する必要があります。NPO法に引きずられることで市民活動が下手に萎縮してしまうことは、私達、市民活動団体自身が望んでいることではありません。NPO法が絶対的・一般的なものだと思う必要はないということを、私は思っています。
また、適用される法令はNPO法だけとは限らず、公職選挙法や政治資金規正法も適用されます。公務員の方なら人事院規則や各条例で定められている制限もあります。

強調しておきたいのは、先程から「目的」という言葉が何度も出てきていますが、「目的」と「手段」あるいは「結果」を区別して議論しないと、こんがらかってしまうということです。昼ドラみたいな変な例えで申し訳ないですが、例えば資産を持った男性に近づいてくる女性がいて、親族から見れば「遺産目的なの?」みたいなドラマがありますよね。ですが、本人達は純粋に愛し合っていると。当事者同士がどう思っているかは、外形的なものでなく中身までしっかり見なければ判別できません。NPO法人には政治目的は無く、たまたま結果としてデモ行進をしているだけであっても、外から見ると「どう見ても政治的」「特定の政党を潰したいだけでは?」と見えてしまう可能性もあります。もちろん法律で担保されている活動であればしっかりとやれば良いのですが、その見え方には気をつけなければ、余計な誤解を招くかもしれないということは押さえておきたいポイントです。
また、法人と個人の関係について言えば、代表理事が法人名を個人名の先に置いて特定の政治家や政党を推薦することは、かなり危ない、グレーでも黒に近いといえます。反対に、個人名を先に置いて法人名を後に置くのであれば、団体自身が推薦しているとはみなされないということは、政治に詳しい方であればご存知かと思います。法人として行っているのか一個人として行っているのかは、非常に大事なポイントです。個人としては当然、政治活動の自由もありますし、どの政党、どの候補者に投票しようと自由です。これが法人ということになると、一定の制約が生じるということは既に判例も出ており、法人に自然人と同様の権利が認められているのではないということは、押さえておいていただきたいと思います。

NPOは“ノンポリティカル(Non-Political)・オーガニゼーション(Organization)”ではありません。政治的意味付けがあっても良く、政策提言活動はいくら行っても自由です。政策提言活動、アドボカシー活動、具体的な政治上の施策を推進するための活動は、認定NPO法人、仮認定NPO法人、NPO法人はすべて自由です。政策提言活動は余程のことがない限り、咎められることはありません。政策提言活動に留まっている限りは自由です。禁止されていません。このことはぜひ覚えて帰っていただきたいです。政治上の施策の推進に留まっている限りは全く問題ありません。重要なことなので3回言いました(笑)。しかし、一方でNPO法人はあくまで「特定非営利活動」をやるための法人格であり、ひたすら政治上の主義の活動や候補者の推薦を行いたい、政治活動をバリバリやりたいのであれば、政治団体をつくってしっかり行った方が良いと思います。
 ポイントとして、資料の《政治活動制限比較表》をご覧ください。原則として、認定・仮認定NPO法人には禁止事項が多いということです。「政治主義を推進する・反対する活動」は、目的に関係なく禁止されています。また、認定制度は実績主義ですので、初回の申請であれば、過去2事業年度には一切やってはいけません。現在認定・仮認定をとっているNPO法人も、これを行った場合には認定・仮認定が取り消されます。同じく、「候補者の支持・反対活動」も禁止されています。「政党従属活動」というのは、「政党のために利用してはならない」ということを表現したもので、政党の下請けとして動員をかけたり政党をヨイショするイベントばかりやっていたりすることを指しています。これはNPO法人も認定・仮認定NPO法人も禁止されています。「選挙活動」は、様々な前提条件が掛かってくるため原則禁止と書きました。非常に厳しい制限を乗り越えれば可能かもしれません。「政策提言活動」は一切自由ですが、政治献金だけは認定・仮認定NPO法人において禁止されています。
 他にもNPO法人と政治活動に関する事例を考えてきましたが、時間の都合で割愛します。後半のパネルディスカッションで時間があれば触れたいと思います。

【情報提供2】
公益認定と政治活動等の取扱いについて~不認定事例をベースにした報告~

(公益財団法人公益法人協会:専務理事 鈴木 勝治さん)

来場者の属性はNPO法人がほとんどの様子で、公益法人はあまり多くないと司会者から聞いております。公益法人は政治活動についてあまり議論がありませんでした。これから述べることは私個人の一つのオピニオンとして、こういう考えがあるということでご理解いただきたいと思います。

公益法人をコントロールしている法律には、一般法人法と公益認定法があります。NPO法人の方はあまりご存じないかもしれないと思い、PPT資料の16P以下に法律の抜粋を掲載しております。
一般法人法と公益認定法においては、NPO法の様に政治活動を名指しして禁止する乃至は定義の中に明記されているということは一切ありませんが、このことは自由に政治活動ができることを意味しません。政治資金規正法等は当然適用がありますし、公益認定法では公益目的事業を主として行う義務があります。公益法人は公益目的事業を主として行うように定義され、事業の中身が規定されています。欧米の場合、何も書かれていなければやって良いとなりますが、日本の場合、できると規定されているものしかできません。公益法人において政治活動を行うことができる規定がないということは、おそらく「できない」という結論になるのではないでしょうか。厳密には詳細に議論する必要がありますが、実務家としては、政治活動は難しいという理解にとりあえずはとどめておきます。
具体的に、テクニカルに難しい事例として、公益法人は一般法人をベースに公益認定を取っています。公益認定をとる場合には、具体的に今後こうした事業を行うと記載した書類を申請して認定を受けねばなりません。公益目的事業、その他事業もがんじがらめであり、書いたことはやらないといけませんし、書いてないことはやってはいけません。これを守らないと認定が取り消しになるので、守らざるを得ません。
ただ、救いがあるとすれば、法人プロパーの事項として、行うことができるかどうかです。会計上も公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計と3つに分かれて管理していますので、その法人会計の中で例えば政治献金をしたらどうなるか、あるいは政治家のパーティに参加する場合はどうかなど検討される場合があります。多分、多くの団体では自粛しているでしょう。特に政治献金を行う場合は別に政治団体をつくって行っています。政治家のパーティについては税制改正等のアドボカシーを行う限り付き合わないといけない場合もありますが、公益法人協会の場合は役員が皆ポケットマネーで参加し、法人として拠出することはありません。

なぜ今日公益法人の関係者が参加したかということの意味ですが、最近政治問題というべきものが発生しました。公益法人の場合、公益目的事業・収益事業等について行政庁に認定申請をしますが、申請過程で行政庁から「駄目だ」と言われた内容が政治的な問題であったため、私共も政治問題に関わることとなりました。具体的に問題が発生するのは、①公益認定を取得する場合と②公益目的事業等を変更する場合であり、この「等」には収益事業も含みます。
具体的な不認定事例としては、一般社団法人日本尊厳死協会。現在は財団法人に組織変えしているため同法人は存在しません。法人目的は公益として非常に立派ですし、公益目的事業も尊厳死思想の普及等、具体的には尊厳死を宣言するリビングウィルを扱う事業です。これについて認定等委員会は、公益性が無いと主張しました。
その理由として、(1)リビングウィル事業が尊厳死の法制化を前提としていることとされましたが、これは当局の誤解・誤認と思われます。法律があろうがあるまいが、リビングウィルを尊厳死に関わる遺言を取り扱う事業として行っていますし、公証人を通じて行うこともできるものです。
理由(2)として、公益認定を与えるとリビングウィル事業に「お上のお墨付き」を与えることになるといっています。
理由(3)として、特定事業の法制化を推進することを目的とする事業は、公益目的事業に該当しないといっています。これがある意味で政治活動と思われる部分ですが、しかしこれは、尊厳死協会が法律を制定してくださいということ自体は主義の主張ではなく、「施策」に該当するので構わないと私共は考えていますし、それを政治活動というのはとんでもないと思っています。
ただ、認定等委員会も附言として、「『法人市民としての良識ある立法促進活動は、民間団体として自由に活動し得る領域である』という少数意見もありましたが、しかし委員会統一見解として『現行法体制との抵触等の問題が生じない場合、特定の立法措置そのものというよりもそれが目指すところのより大きな公益上の価値や大義の実現のため、その一環として民間の主体が様々な立法を要請し促進するための活動を行うことを否認するような立場を取っているわけではない』」と言っています。しかし、色々な立法を要請する場合に、現行法と全く抵触しないなんて事は有り得ません。現行法の体制がおかしいから変えてくれと言っている訳であって、全くの論理矛盾といえるでしょう。
公益法人協会はこれらに対しおかしいと意見表明を提出し、「公益法人の立法活動については、「法人市民としての良識ある立法促進活動は、民間の団体として自由に活動し得る領域」である」という風に意見書を出しています。今後の認定において考慮されることを期待しています。

 最後に、公益法人誌には内閣府の認定の答申全文を載せており、PPT資料に添付している公益法人協会の意見全文を載せています。関西学院大学・岡本仁宏教授の詳細の論考も載せています。最後に放射線影響協会・長瀧理事長による、医者の立場から「リビングウィルの扱いについて当局の主張は事実ではない」との立証も得ており、私共が申し上げた論拠は全て正当に成立し得ると理解しています。
 実際の活動というよりは認定申請の段階での事柄だが、政治的に問題になった事例を紹介しました。

【会場質疑】

来場者
政治活動を規制する条文がNPO法だけに入っており、他の法人格には無い規制ということ。一部の人達に何らかの規制をすることは、合理的理由が無ければ憲法違反だと思いますが、そうした議論はNPO法制定時になされたのでしょうか。
おそらく、当時の自民党には「この条文を入れなければ法案を通さない」という警戒もあったと思いますが、現在は「NPOだから反自民党」という認識も無いのではないでしょうか。
次のNPO法改正の際に、第2条第2項第2号を外すという運動は、シーズでも考えているのでしょうか。

(山岡)
第3条があれば第2条第2項第2号は要らないのでは、という議論は随分なされましたし、私もそう思っています。法案提出時は公益法人という許可制の枠の中における全く新しい特別法ということで、宗教についてはサリン事件の影響もあって特に気を使い、主たる目的としないという文言を入れました。それとともに、NPO法人が政治的にどう使われるのか、地方における政治資金の受け皿に使われる可能性が大きいと思われたのかもしれません。自社さの駆け引きの中で、最終的には政治活動を「施策」と「主義」に分ける形で法案に取り入れ、選挙活動についても「目的とするものでない」としました。自民党以外の党からは、第2条第2項第2号をなくすように修正する方向で議論したというのが実情です。
私自身は、第2条第2項第2号は無くて良いと主張しています。先程紹介した論文の中では、第2条第2項第2号は削除すべきだと主張しています。法改正の議論の中で、条文があっても害にならないという反応が多かったです。ただ、実際にはこの条文があるために、行政との関係で政策提言的な活動を自粛する面があり、やはり外した方が良いと思います。第3条を外すかどうかは、他の法令で適用している全てを議論する大仕事になり、非営利法人体系全体を議論する必要があります。第2条第2項第2号はNPO法人だけの話であり、無い方がさっぱりすると個人的には思いますし、その様に言い続けてきました。

(関口)
個人的には、第2条第2項第2号が実務的に特段の大きな影響があるかどうかというと、NPO法人において施策の実現は自由であり、宗教法人法や政治資金規正法にしても、専らそれをやりたい方々については、それぞれスペシャルな法律も準備されており、あえてこの段階でNPO法から第2条第2項第2号を削除し、宗教の布教も政治活動も政党の応援も何でもOKとするのは、いかがなものかと思います。
もちろん、確かに分かりにくい規定であり、事例で考えれば良いかどうかの意見は分かれてきます。何かもっと分かりやすい規定なりQ&Aやガイドラインは必要ですが、まるっきり削除するのはどうなのかと思います。

(鈴木)
質問ではなく補足として。肝心なことを言い忘れました。本日「英国チャリティ~その変容と日本への示唆~」というシンポジウムのチラシを配っています。ぜひご参加ください。英国では政治活動だけでなく、公益認定活動など非営利活動全般について、イギリスの現状について学者・専門家の方々に調べていただいた、手前味噌だが非常に水準の高い本で、本日出席いただいている岡本先生にもチャリティ委員会並びにその政治活動の項で執筆いただいています。本だけでなくシンポジウムで、非営利法人の政治活動についてディスカッションもあります。本日の議論の続きとして聞いていただければ良いと思います。

パネルディスカッション「NPOと政治活動についてあらためて考える」

[登壇者]
認定特定非営利活動法人浜松NPOネットワークセンター :事務局長 小林 芽里さん
認定特定非営利活動法人しがNPOセンター :代表理事 阿部 圭宏さん
関西学院大学教授、日本NPO学会 「NPOと政治」スタディグループ :岡本 仁宏さん
認定特定非営利活動法人難民支援協会 :代表理事 石川 えり さん
[コメンテーター]
特定非営利活動法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会 :代表理事 関口 宏聡さん
[モデレーター]
特定非営利活動法人日本NPOセンター :常務理事 今田 克司


(今田)
(8)パネル全登壇者パネルディスカッションのテーマは「NPOと政治活動についてあらためて考える」です。本日のフォーラムのタイトルが「NPO法と政治活動についてあらためて考える」であり、ここから「法」をとったものがディスカッションのタイトルです。フォーラムの前半は法律を基にした議論でした。後半は間口を広げて、そもそもNPOと政治はどのように関わるべきなのかということを、会場の皆さんと一緒に紡ぎ出していきたいと考えています。
ここでいうNPOは必ずしも特定非営利活動法人だけではなく、広い意味での民間非営利活動を担う人々という意味合いで使いたいと思います。そうであれば政治活動はその中心課題になりますから、どのように情報やロジックを整理し、また昨今の政治状況の中で、市民活動を担う私達が政治にいかに向き合うか、しっかり考える機会が必要であるとの考えから、このセッションを企画しています。
まずパネリストの皆様から、NPO法が施行された1998年12月1日にどこで何をしていたかを自己紹介代わりに伝えていただきつつ、現在の活動を簡単にご紹介いただいてからご発題ください。
 ちなみに私は、当時カリフォルニアでNPO活動をやっていました。日本からアメリカのNPOの視察に来る方が多く、NPO法やパブリックサポートテスト、宗教と政治の関係性などが話題になることもありました。

(石川)
1998年12月1日は東京におり、大学4年生でした。当時はアムネスティ・インターナショナルでインターンをしながら、在住外国人の支援にも関わり始めていました。ルワンダの内戦を知り、どうしても難民問題の解決に関わりたいと思いアムネスティに入りましたが、日本にも難民がいるということに大変衝撃を受け、何かしらの支援に関わりたいと思っていました。そして、アムネスティだけでなく新しい団体を立ち上げなければいけない、という話が出てきたのが1998年12月でした。市民立法・議員立法でこういう政策ができる、立法までできるということに刺激を受けて新しく立ち上げた団体が、後の難民支援協会になります。そのようなNPO法とのつながりを大変印象深く覚えています。

世界の難民の状況をお話しますと、その1998年より更に最悪な状況というのが、ここ数年の状況です。第二次世界大戦以後の最悪の状況といわれており、6,000万人を超える人達が難民になっています。1日4万2,500人が新たに難民となり、避難を余儀なくされています。今日のシンポジウム開始から1時間半が経過していますが、この間に2,500人が世界のどこかで避難を余儀なくされ、これから1時間半のパネルディスカッションの後、更に2,500人の難民が生み出される、という現状を覚えていただければと思います。
さて、ご存知の方も多いかと思いますが、昨年2014年に日本で難民申請をした5,000名の内、何名が難民認定されたでしょうか?アメリカ並みの認定率50%:2,500名と思う方、挙手をお願いします…居られないですね。皆さんご存知のようですね。フランス並みの認定率25%:1,200名と思う方。では50名位と思う方。これも居られないですね。皆さん正解です。11名です。非常に厳しい状況です。
NPO法施行により、市民が政策を変えることができるのだと刺激を受け、私達は1999年に難民支援協会を設立し、東京都では人権分野の第1号のNPO法人として認証されました。一人ひとりの難民の人達に法的支援、生活支援、コミュニティや自立支援を行っており、これまでに4,900人以上の方を支援してきましたが、現在の1%未満の認定率、難民認定が11人という状況が良いわけでは決してなく、難民認定されるべき人が不認定になっているということに問題意識を強く持っています。
これをどう防ぐかといえば、現場で一人ひとりを丁寧に支援していくことが絶対的に大切ではありますが、やはり同時に制度を変えなくてはいけないという思いでやっています。どうやって変えるかというと立法が必要で、「難民法」が必要だと働きかけています。日本には難民をどういう手続きで認定するかという「認定法」はありますが、出入国管理と併せて《出入国管理及び難民認定法》となっています。難民をどう保護していくかという包括的な難民法はなく、それが必要ではないかと立法府に提案をしています。各政党に提案しており、中でも民主党は2002年に「難民等の保護に関する法律案」を国会に提出してくださいましたが、結局は廃案になりました。
法律を提案していくほか、提言や申し入れも積極的に行っています。難民認定の手続は不認定となる人でも平均3年間待ちとなります。その期間のセーフティネットは非常に限られており、生活保護は受け取れません。難民申請者のための生活支援金は生活保護より少ない額となっており、かつ受給者は2015年3月末時点で160人です。昨年の申請者数が5000人あったことを考えると、非常に少ないです。そのようにセーフティネットもなくホームレスとなっている方に支援を提供していますが、やはり政府の責任として予算の確保を申し入れています。
最近では、シリアの危機に対して、日本にも積極的な役割を果たしてもらいたい、日本に自力で辿り着いた人だけでなく日本政府が自ら迎えに行くようなシリア難民の受け入れをしてほしいと、首相に対して申し入れをしました。現場の支援と同時にアドボカシーを通じて、難民を取り巻く制度自体を変えていく、という思いで活動しています。

(今田)
政策に関わる活動が難民支援協会の活動の根幹だということですが、認定NPO法人という立場として、アドボカシーにおいて気を付けている点はありますか。

(石川)
各政党と等距離でお付き合いすることを心掛けています。政策提言も特定の政党ではなく各政党に提出しますし、選挙の後援や支援もしません。コンプライアンスというよりも、政策提言をする上で各政党と等距離でお付き合いしなければ、政策の実現が難しくなるのではないかという現実的な考えに基づいて行っています。
政治献金についても、法律で規定されているから出さないということではなく、せっかく支援者から難民支援のためにお預かりしているお金ですので、ホームレスの方、食事をしていない難民の方がいる中で、政治献金をするという発想がありません。

(岡本)
私の本来の専門は、西洋政治思想史・政治哲学です。阪神・淡路大震災を契機にボランティアやNPOが実際に悩んだり苦しんだりしている問題を学問的にきちんと考えていきたいと思い、大学でも講義を立ち上げました。現在はNPO論ももう一つの専門になり、NPO学会にも関わるようになりました。学会でも、NPOと政治についてしっかり考えていきたい。ちなみに、国際比較研究では、日本のNPOセクターの特徴はアドボカシーが弱いということが常識です。

さて、「NPOと政治・スタディグループ」をつくった文脈を三つお話しします。
一つ目の文脈ですが、非営利公益法人にはいろいろな種類がありますが、NPOセクター全体として政治活動に関するルールが問われているということがあります。
私は「NPO法人」という言葉は使いません。「NPO」=非営利団体の法人格は、特定非営利活動法人だけでない。公益法人はもちろん、社会福祉法人と学校法人は第二次世界大戦後に作られましたが、これらもNPOです。これらがNPOセクターを構成しており、イギリスでのチャリティセクターです。日本では、役所の下に縦割りにされ法人格がバラバラになっており、セクターとしてのアイデンティティ、つまり自覚も社会的認識もありません。これは、日本の大きな負の遺産と言ってよいものです。
明治以来、公益法人制度は長らく主務官庁制度のもとで官がNPOセクターを牛耳る仕組みでした。阪神淡路大震災のインパクトもあって、特活法人ができ突破口を開きました。その後、110年ぶりの大改革である公益法人制度改革が行われ、特活法人に加え、もう一つ一般的な非営利公益NPOの法人格ができました。法人格がバラバラにされ、セクターを官に分断され取られてしまっている、ということをもっと考えなくてはいけません。公益法人制度改革が済んだ今はチャンスであり、いかにNPOセクターを市民的なものにしていくかを考える必要があります。
この文脈で、多様な非営利公益的法人類型において、政治活動規制をどう考えていくかがとても重要です。それはセクターの自立性や社会的インパクトに関わる焦点です。
実は、公益法人と特定非営利活動法人の政治活動に対する法的規制は大きく違っています。特活法人の政治活動規制における、「政治上の主義」・「施策」、選挙活動との区別、「主たる目的」「目的」の区別、さらに認定特活法人の「活動」規制の違いはきちんと理解し、「政治活動の禁止」神話を打破すべきです。
公益法人には、明文上の政治活動制限がありません。しかし、実態とその規制には非常に問題があります。自民党の政治資金団体である国民政治協会に政治献金をする公益財団法人がありますし、他方アドボカシーを積極的に進める財団が不認定となる混乱があります。制度改革後、ルールが未形成・未確定な状態である今、きちんとしたルール形成を積極的に働きかけなければいけません。法人格間の違いが必要か、その解消を含めてセクター全体として政治活動のルールを考える必要があります。
二つ目の文脈として、非営利セクターの力量が上がってきており、政策形成に影響を与える事例が実際に起きていることから、その実態を把握していく必要性があります。環境NGOがグリーン連合の活動などをベースに環境教育等促進法を作り、生活困窮者自立支援法も大きなアドボカシーがあって制定されています。同時に、そのように成果が挙がっているものとは裏腹に、地域の包括ケアシステムなどではNPOが資源として位置づけられているなど、社会福祉政策の資源として動員される可能性が高まっています。イギリスでも従来の行政の仕事を民営化しNPOを担い手としようとしている文脈で、チャリティ、つまり公益NPOですが、その自立性が保てるのかということが争点になっています。非営利セクターの力が増大しているが故に、お金をもらっているが故に、より大きな課題を抱えつつあるということです。これが二つ目の文脈です。
三つ目の文脈として、安保改定のような市民運動・市民的政治活動が盛り上がっています。それとNPOがどういう関わりを持つべきかを課題として考えるべきだと思います。すべてのNPOがやれということではなく、日常的にそれぞれのミッションを持って活動する特定非営利活動法人や公益法人が、どのような形で市民運動・市民的政治活動と関わっていくのかを、本気で考えないといけません。
それらを踏まえた上でNPO学会の中で研究グループを作り、意識的に研究を活性化させていこうと考えているわけです。研究者だけでなく実務者と一緒になってやっていきたいと考えています。

(阿部)
滋賀県と市町村が出資して1997年に淡海ネットワークセンター(財団法人淡海文化振興財団)を設立し、県庁職員から同財団に出向して6年間の勤務後、県庁を退職して、現在はしがNPOセンターをやっています。この業界にいる人間としては長い方です。
県がNPO支援センターを設置したのは、1996年のかながわ県民活動サポートセンターに続いて全国で2例目でした。私自身はNPO法の署名活動をやっていましたし、1998年には滋賀県で初の知事選公開討論会開催の手伝いもやっていましたし、どちらかといえば、NPOの政治活動というよりも地方公務員法の政治活動に引っ掛かるのではという指摘をされたこともありました。もちろん、自分の中では整理してやっていましたが。NPO法ができたことは当時として画期的だったと思います。淡海ネットワークセンター設立時に言われていたのは、「県の施策に反対する団体がいたらどうする」ということで、役人の管理職あたりは非常に気にしていました。
本日お話ししたいのは、いわゆる議会と議員の関係性をどうしていくべきなのかということです。

私自身は自治に関心があり、現在の二元代表制は地方自治を進める上で大切だと思っています。しかし、政務活動費の話を聞いていても、議員が本来の役目を果たしておらず非常に残念に思います。今回のさいたま市議会の事例でもそのように思いました。
2005年に「政策フォーラム滋賀」という団体を作り、毎月定例で現職議員、首長や将来政治家になりたい方も含めて政策の勉強会をやっていました。参考にしたのは、神奈川県の「参加型システム研究所」の活動でした。当時は特に政務調査費の使途がよく分からず、また議員にとっても政策を勉強する場はありませんでした。今でも例えば市町村アカデミーや、大津市にも全国市町村国際文化研修所、いわゆる自治体職員向け研修施設がありますが、議員用の研修を開催するとすぐに定員一杯になるそうです。当時も勉強したい議員は全国的にいるが勉強する場がないという状態でしたので、その勉強会を7~8年開催してきました。
併せて、選挙に出馬したい人向けのセミナー、マニフェスト評価なども行ってきました。しかし、ずっと残念に思ってきたのは、政党・会派に関係なく門戸をオープンにしてきましたが、いわゆる多数派の政党・会派からはほとんど議員が参加しなかったことです。議会は多数派で動きますので、優秀な議員が一人いても動きません。市民派議員は多数派になりません。市民派議員の方はNPO業界の人に最も理解を示したり、もともとNPOをやっていた人が市民派議員になったりしますが、そのような議員が議会で多数派にならないために、実際は政策とは別の議論、政局を弄ぶような議論になりがちです。それでは市民力が上がりません。
最近は自治体で議会基本条例が流行っており、多数会派も積極的に関わるケースが多くあります。いわゆる自治基本条例に反対していた人が議会基本条例を作るということで変な感じもしますが、議会基本条例を作ることは意味のあることで、議会の報告会や説明責任が生じるなど、いろんな意味で良くなっていくのではないかと考えています。議会、議員を少しでも変えていくことが、結局は市民活動も活性化することにつながっていくのではないかと考えています。

(小林)
1998年12月は、前年にCOP3の会合が京都で開催されて、全国青年環境連盟・エコリーグの副代表として京都を走り回っていたように思います。COP3に関して政策提言、声明を出さなくて良いのかという話を組織内でしましたが、ネットワーク組織だからダメだと却下されました。当時から政治的なものに関心が高かったということを思い出しています。

現在、浜松NPOネットワークセンターは「議員と語るNPO円卓会議」を3年連続で開催しています。これは静岡県労働者福祉基金協会が主催し、NPOで企画・運営を行っています。NPOと議員が互いに学びあう場が欲しいと提案し、3年前から開催しています。
浜松市は人口80万人の政令指定都市で、当初の市議会議員は47名、女性議員はたったの3名でした。2007年から4年間は、浜松NPOネットワークセンターの前代表が市議を務めており、議会の情報が入りやすかったのですが、次の選挙でNPOに詳しい議員がゼロになってしまいました。NPOが活動をする中では施策の壁にぶつかることもあり、議員を通してなんとかしたいという場面が出てくるため、NPOのわかる議員を増やしたい、NPOの活動を知ってほしいという思いから円卓会議を企画しました。
陳情合戦の場にはしたくなかったので、静岡大学の日詰先生に「NPOと議員との協働」というテーマで基調講演をいただき、例えば政務調査費を用いた共同調査研究を基に議員提案を行うことや、議会基本条例を取り挙げて、議員が市民の声を聞く必要性をお話しいただきました。また、NPOの側にも活動のアピールと、団体が取り組む社会課題を意識してもらうために詳細プロフィールを出していただきましたが、「社会課題は無い」と回答するNPOもあり、議員とNPOの意識のズレも若干あってのスタートでした。
1年目は5会派から5名の議員が参加しましたが、最後まで残ったのは2名のみでした。途中で帰った議員に聞きますと、「NPOは吊し上げられそうで…」「圧力団体だ」という話があり、議員も相当に警戒しているということを感じました。
そこで、2年目は議員の議会発言を洗い直し、各議員の得意分野をテーマとして、NPOとテーブルを囲んで協議する形としました。
3年目となった2015年は4月に議員改選があり、NPO出身議員が3名当選し、女性議員も3名から9名に増えました。主に新しい議員に呼びかけたところ、6会派から9名が参加し、全員が最後まで参加してくださいました。今年は「課題の種を集めよう、届けよう」というテーマの下、NPOは課題を届けます、議員はそれを拾ってくださいという形でテーマ別に協議いただき、非常に活発な議論ができました。フレッシュな議員が多かったこともあり、「聞いてあげる」という姿勢から「情報を共有しよう」という対等な雰囲気ができてきたように思います。
浜松市は自治会が強い地域であり、議員も自治会代表のような方が多いです。地縁の視点を持つ議員と、広域で課題に取り組むNPOとでうまく課題を拾い合えると良いと思います。単に議員と知り合うことで便宜を図ってもらうということではなく、NPO側からもアドボカシーをする、一緒に政策を提案していくという関係性を作っていきたいと思っています。

(今田)
それでは、私から登壇者にいくつか質問したいと思います。岡本さんが仰ったところですが、安保法改正の頃から市民的な政治活動が盛り上がってきた現状の中で、市民がNPOを見るときに、政治的・政策的な期待はどの程度変わりつつあるのでしょうか。
例えば難民支援の枠組みの中で、政治・制度を変えようという市民の声が強くなっており、それをうまくコーディネートする立場がNPOであるのか。それともNPOが先導して市民に政治的意識を育てるのか。印象論で構いませんので、皆さんからご回答ください。

(阿部)
具体的には、「動きづらい」ということです。政治的なところでいえば、大学の先生を招いて連続の講演会などを行いたいと思っていますが、踏ん切りがつかず実施できていません。お金の問題も絡みますが。
また、しがNPOセンターのブログの中で私が連続コラムを書いていますが、「それは政治上の主義では?」という人がいました。個人的意見としてコラムを書いていますが、単純な話、市民として腹が立ちますよね、この間の動きは。特定秘密保護法以来、僕はずっと怒っていて、個人ではブログを持っておらず、この怒りを爆発させるにあたって、そこしか書くところが無かったというのが現状です。良ければご覧ください。「いいね!」を押していただければありがたいです。

(石川)
事務所の中でも議論をしています。団体として市民的な動きとどういう連携を図るのか、もしくは深くは連携せずに、同じ思いを持つ者として連携していくのかどうかを一つひとつ考えています。
シリア難民受け入れの申し入れの際にも議論をしましたが、これをもっと大きく広げ、もっと賛同していただき、大きなキャンペーンとしてシリア難民を受け入れたいという意思表明をした方が良いのではという議論もありました。皆で意思表明するとなった場合に、一人ひとりの名前が積み上がることは大きな力になりますが、それと同時に私達は一人ひとりの思いに応えなければならない、応えられるだけのキャパシティが無いのではということもあります。
私達は、目的を達成するために一番有効な手段、最短の手段は何であるかを常に考えています。難民を日本で受け入れることについては、賛否両論があります。「No」という意見があるのは良いことで、無関心よりはいいと思いますが、かなり過激な「No」という意見もあり、団体としてどう応えていくかを考える必要があります。
まさにどう連携していくか、団体内でも議論が始まったばかりであり、政策を最短で実現する手段として良いのか、長い目で見たときにNPOとしてそれが望ましい政策提言の手段であるのかどうか悩むところです。

(小林)
個人的には、政治的な活動も行っていますので、政治色のある活動はNPOでないところでやればいいやと割り切っています。
NPOの立場としては、今年の議員改選によって最大会派とコンタクトを取れるようになって、複数の会派との関係性も大事にしていきたいとなると、特定の色のついたものにしていかない方が得策かなと思っています。特定の施策に賛否をはっきり打ち出すのではなく、疑問を呈する形で、「これおかしくない?」とブログ等で発信しています。例えば、ゆるキャラコンテストで「家康くん」が優勝しましたが、これには何千万円もの税金が注ぎ込まれています。そういった話を「どうなの?」と提示し、市民も税金の使い方を考える必要があるよねと問題提起をしています。

(岡本)
大学もNPOですが、その学園祭で何か起こるかなと思っていましたが、ほとんど何も起こりませんでした。市民の日常的な政治意識には、あまりつながっていないのかな、という印象です。一般的にも、NPOは票にならないと政治家からは言われていて、政治的には無視されている部分もあると思います。
普通の人が政治活動をするということに対して、良い形・スタイルがまだできていないと思います。昔、丸山氏が「在家仏教の薦め」と言ったことがあります。お坊さんだけが宗教をやっていても駄目で、お坊さんではない、出家していない人が宗教をすることで宗教が本当に活性化するということです。民主化も、政治家だけが政治をやっているのではなく、そうでない人がいかに政治に関わるかということを考えなければいけないし、そのスタイルを私達がどう作るのかということが問われています。
所轄庁が出している認定特定非営利活動法人のフローチャートを見ますと、「政治活動をしない」「宗教活動をしない」にYESとしないと次に行けません。これは法的には嘘です。アドボカシーを「主たる目的」にして活動をする認定特活法人ですら設立可能です。全国の所轄庁で同じように使われており、政治活動はしない、宗教活動はしないということが特定非営利活動法人だと思われています。ちなみに、日本NPOセンターは、そういう行政のずさんなまとめ方を許してきてしまったことは、問題だったのじゃないでしょうか。
普通のNPOが自然な形で政治活動に関わること、また普通の市民が政治活動に関わることがどちらも異常だと思われている現状があります。フローチャートが変わるくらいに日本NPOセンターが頑張ってくれれば、そのような現状も変わると思いますね。

(今田)
少し情報提供をします。私は南アフリカに本拠地を持つCIVICUSのシニアアドバイザーでもあり、2001年の9.11以降、テロとの戦いという名目で市民活動を制限しようとする動きが先進国・途上国問わず全世界で起きているということに対して、しっかりアドボカシーをしなければならないと2005年頃から活動していました。最近になって日本でも関心を持つ人が増えてきました。
市民活動を制限する動きとして具体的には、法制度や資金面による政治活動への締め付けがあります。NPOのふりをするテロリストへの海外からの資金還流を規制しようとする動きがあり、政府間組織(IGO)のファイナンシャル・アクション・タスクフォースでも、NPOへの資金還流の制限を強化しようとする動きがあります。最近ではインドやロシアなどでも政府が、海外からのNGOの資金の流れを断とうという動きや、特にインドでは最近「西洋的価値観を押し付けるものでありけしからん」ということで、国際NGOなどに対する圧力が強くなりました。
このように市民活動を制限しようとする動きは世界の潮流であり、これが日本で起こっていないのは日本国内でNPOが甘く見られているからだと思っていましたが、もしそうでないのだとすれば、NPOの影響力もそれなりに強くなってきたのではないかと思います。
そこで、政策提言活動は重要にもかかわらず資金がつきにくいことは皆さんも同意なさると思いますが、そのような中で皆さんがどのような工夫をしているのか、すれば良いのか、お話しいただけますでしょうか。

(阿部)
頭の痛いところです。しがNPOセンターも事業の中に政策提言を大きく入れていますが、実際になかなかできない。基本的調査を行うにしても資金が無く、基本的調査につく助成金もほとんどありません。行政の補助金も探しましたが、滋賀県内ではそのようなものが無く、残念ながら資金調達できていないのが現状です。

(小林)
政務調査費を用いて議員と一緒に調査活動をできないかと考えています。当団体の元代表が審議会議員であった時や、他の市民派議員の方がそのようなことを実施してきた事例もあります。ただ、今年の円卓会議で他の会派の議員に政務調査費の自由度を尋ねたところ、一度会派に吸い上げられて使うので自由度が無いとの回答をいただきました。そうなると議員とNPOとが協力して調査を実施するということは難しい面もありますが、何か突破口になればと考えています。

(石川)
大前提として、日本において外国人である難民を支援することには、ほとんど公的資金がつきません。そのため、団体設立時から自己資金の確保と助成金の活用によって運営をしてきました。
特に政策提言は助成金がつきにくいものですので、できる限り自己資金で賄うようにしており、そのためにも自己資金をきっちりとファンドレイズするようにしています。シングルイシューに絞り、この課題については、ということで行政と協働したことはありますし、助成金をいただいたこともあります。例えば、2001年には外務省からご依頼いただき、難民の人達が本当にどういう状況にあるのかを調べてほしいということで、100人の聞き取り調査をしたことがあります。また、外務省がシェルターの設置を検討しているときに実態調査を行い、提言にまとめたこともあります。助成金では、アドボカシーを志向したもの、具体的には難民申請中の人が国民健康保険に加入できない問題について提案させていただき、助成金を得てアドボカシーを行ったことがあります。
細かく見れば政策提言に使わせていただける助成金もありましたが、やはりコストをかけるべきところにかけるという意味では、そのための自己資金を持っておくことが重要であり、団体運営としてそれを確保できるようにしたいと思っています。以前、シーズの松原さんから「法案1本2,000万円と思いなさい」とも言われ、これは的を射ている数字だと思います。例えばシリア難民を受け入れようと思ったときに、私達は2,000万円をすぐ出せるのか、出せないのならばどう実施していくのか。そこはNPOとして意識するべき数字であると思い、政策提言を考える際には頭に入れるようにしています。

(岡本)
行政から資金をもらってアドボカシーをできるのか、という話があります。政治資金規正法では、補助金等を受けてから1年間は政治献金をしてはいけないと定められていますが、アドボカシーを行ってはいけないとは定められていません。つまりアドボカシーは行って良いのです。問題となっているのは、行政から資金を受けると活動を控えてしまうのではないかということです。非営利団体を対象に実態調査を行ったところ、日本ではその傾向はあまりないという結果が出ました。行政から資金を受けることで実態が分かり、言いたいことも増えるということでしょう。行政から資金を受けていてもアドボカシーをして良いし、するべきであるし、しなければなりません。
イギリスのチャリティに対しても、行政から資金を受けてアドボカシーを行うことは自分のところにお金が流れることを政治的に要求することになるのだから間違っている、という批判もあります。こういう批判に対して、NCVO(The National Council For Voluntary Organizations)などのセクター団体は、チャリティは基本的には公益的なNPOは受益者(ベネフィシャリー)のためにあり、支援される人たちのために活動を行っているということを強調して反論しています。チャリティやNPOにとって、奉仕する対象の人達の利益を自分たちが支援して表現するという意識が非常に重要です。そのために公費の使われ方や政策の変革を社会に対して訴えかけることは、自分たちの当然のミッションであり責務だと考えなくてはいけません。
誰が受益者なのか、誰のためにやっているのかが曖昧になればなるほど、政治活動とミッションが曖昧になり、一般的な政治活動になってしまう可能性があります。行政との関係性では、自分達のミッションと政治活動のつなぎ方について考えることが非常に重要になると考えています。
今ではソーシャルジャスティス基金やいろいろな新しい基金もありますし、海外の財団の場合には社会変容をちゃんと促すことができる活動に資金を提供すること、どんな変化が現れるかが非常に重要とされています。日本の財団関係者も、そしてもっと広く言えば私たちが、社会に変化を促すことがNPOにとって重要な課題であることを強調し、そのために資金を使うことは正当だということをもっと打ち出すことが必要でしょう。
さいたま市議会の件の論点を整理しますと、1点目は、ご存知のように、条例にある「政治上の主義」と「政治上の施策」の区別という点です。この条例に基づけば、問題とされた団体が登録しセンターを利用していることに何の問題もない。
2点目は、特定非営利活動促進法における「主義」と「施策」とを区別する規定が市民活動の協働推進条例に入れられているということの問題です。認定特定非営利活動法人レベルの規制を市民活動推進条例に基づく市民活動の定義や利用のための参入条件として入れることは必要がありません。それにも関わらず、これが入っているということが問題だと思います。時間がありませんので、詳しい話は配布資料をお読みください。
3点目は、主義と施策の区別自体の問題です。この区別は曖昧すぎて、あえて言えば、特定非営利活動法人ムラの用語だと思っています。もちろん、当面、この区別は戦略的には非常に重要であり、ちゃんと分かっていただくように努力することが必要です。ただし、法案審議における議会答弁の中でも、もともとは共産主義・無政府主義・社会主義の話だったものが、いつの間にか議会主義が入り、民主主義・自由主義が入るとか、議論のなかでは平和主義とか環境主義が入るのかどうか、ということにすらなりました。「9条を守れ」と言えば施策ですが「平和主義」と言えば駄目という、この曖昧な部分を市民に分かってもらう努力を今後一生懸命していくべきなのでしょうか。むしろ、文言上の曖昧さを克服してこの区別を永遠的なものとしないように法改正を求めていくことを視野に入れていくべきではないでしょうか。
このことは、公益法人を含め、全体として非営利で公益的なNPOの政治活動のルールをどのようにつくっていくのか、という点で特に重要だと考えています。こういうことは、無制限に政治活動をした方が良いということではありません。
政治献金を行うこと、選挙運動を行うことは、どこまで非営利公益NPOにとって、特に税制上の優遇措置との関係で許されるべきでしょうか。アドボカシーについても全く自由でいいのか議論していくべきでしょう。ちなみに、アパ日本再興財団という田母神氏の特集論文を主催した団体も公益財団法人となるなど、右翼的な団体も公益法人となっています。憲法上の人権規範との関係で、もしヘイトスピーチをするような団体があれば、それに対する規制も議論になるでしょう。多様な政治的主張をもった団体があり活動することは当然です。しかし、どのような形で税制優遇との関係で様々な活動の正統性(レジティマシー)を確認できるのか、政治献金の透明性の確保などを含め、いかに市民からの寄付や支援を受けられる信用性を築いていくことができるのかを、非営利セクター全体の課題として考えていくべきだと思います。特定非営利活動法人だけの問題ではなく、非営利公益セクター全体の問題として政策的な議論を皆さんの経験の中から紡ぎ出していけば良いのではないかと思います。

(関口)
私の認識としては石川さんに近い感覚です。目的と手段が倒錯しては元も子もなく、ゴミのない社会を作りたいのか、ゴミ拾いをしたいのかという例えで言われることですが、社会課題の解決のために私達は法人を作り、活動をしているのですから、その解決のためにロビイングや直接サービス提供が必要であったり、政治活動的なデモをしたり、アンケートをしたり、公開質問状を送ったりという必要が出てくると思います。それは石川さんの言葉を借りれば「最短距離で解決するためにはどうすれば良いのか」ということを常に忘れないようにしなければ、デモのためのデモ、集会のための集会、反対のための反対、ということになり、NPO法人も結局かつての運動団体が経てきた同じ道を辿ってしまう可能性があります。それぞれの法人格の法律がなぜできたのかを忘れないようにしなければいけません。
資金の話は今後厳しくなっていくと思います。例えば医療分野は巨額の資金が動いており、昔は製薬会社名を隠して広報されていた医薬品のCMが、現在では資金の出所である社名を出して広報しろ、ということになりました。あるいは医療・製薬業界はNPOや学会、研究者などに多額の資金を提供していますが、これには公正取引委員会規約で一定のルールが定められています。当然のことながら、まとまった額の資金を提供されれば、製薬会社にとって都合の良いように発言したり、厚生労働省の委員会で製薬会社に配慮した発言なり意思決定をしたりする可能性が出てくるという話があったのでしょう。
それを政治の話に結び付けて言えば、NPO法人も政治なり政党からの業務委託も行えるのであり、収入のほとんどが特定の政党からの補助や助成ということも不可能ではありません。おそらくアメリカでもロビイスト規制があり、日本でもある政党はロビイスト規制法を作ることを公約に掲げていましたが、透明性や情報公開、あるいは取引の開示について変な法規制を招かないためにも、NPO法人としてどこまでやって良いのか、市民社会の支持を今後も得ていくために何をやるのか、やらないのか。NPO法ができて17年ですので、例えばガイドラインのような自主的宣言などがあっても良いと思います。
政治的中立という意味では、NPO法人はかなり厳しい制限のある法人格です。その厳しいという議論、いろいろな異論はありつつも、「NPOと政治」を今後の非営利セクターのテーマとして、また営利企業や宗教との付き合いも含めて、どこまでがOKでどこまでNGかなど、他分野との協働こそが成果を生み出せるきっかけかもしれません。
今回のフォーラムが、私達なりの考え方をしっかりと確立し、対等な立場で、疑われることのないようにお付き合いできることができるきっかけになれば良いと思います。

<質疑>

来場者
公民館に置いてあります反原発や9条を守る会などの市民活動のチラシについて、政治的な運動だからおかしいのではないか、というチラシを市議会議員が配っている現実があります。
受付にチラシを持っていった場合に、「政治」という固有名詞がつくだけで駄目だと言われることもあります。その人達の主張の礎になっているのは、日本NPOセンターが出している本や、NPO法にある条文が頭にあるようです。曖昧さについて具体的な明確な規定をどこかで出していただければ、私達も相手を説得できるのですが、どのようにお考えでしょうか。

(関口)
事実としてそのチラシにどのような内容が書かれているのか、反原発だけならば全く問題無いと思いますが、そのような団体は「○○党を潰せ」とか書きがちです。支援センターの皆さんにやっていただきたいのは、自身のさじ加減で特定の施策の良し悪しを言うわけにはいきませんが、施設利用のルールがあることは明確ですので、「これは書き過ぎではないか?」などのアドバイスをすることが、支援センターの価値なのではないでしょうか。
ただ言われたからチラシを並べます、議員から指摘があれば下げますでは、あなた達は何なの?ということになります。多様な意見があり、それを公民館の利用条例等に従って判断することだと思います。先程の繰り返しとなりますが、多様な市民社会を維持するためには、互いに守らなければ行けないルールもあります。行き過ぎた表現や記載は直していただくというアドバイスをするのは充分にありえると思います。
(岡本)
公民館は社会教育法上の施設として、公民館主事によって「社会を教育する」仕組みでもあります。コミュニティ・センターと異なる社会教育法上の施設ですよね。さいたま市で9条俳句が訴訟問題になっていますが、公民館が社会教育施設である以上、一般的には、公民館の出版物について社会教育の文脈で規制が課せられる可能性がありえます。もちろん、9条俳句問題のような、自主活動の表現規制をすることは行き過ぎですが。
しかし、「公の施設」については、地方自治法第244条第2項において「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」と定められています。これは非常に強力な条文で、憲法上の表現の自由との関係で最高裁でも判決が出ており、正当な理由というのは「明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」がなければ、集会施設の利用を拒んではならないことになっています。ですから、非常に多様な人が集会場を利用することは憲法上の権利です。集会施設であれば市民活動に自主規制をさせる必要は全くありませんし、そのようなチラシを置くことも規制することは憲法違反です。多様な表現の自由があることを前提にした形での集会施設の利用の権利を守ることが必要です。
市民活動支援センターについて問題となるのは根拠条例に基づいてです。条例に、特定非営利活動促進法の規定を無媒介に入れるから問題が起こるのです。いろんな協働の仕組みがありますので、行政から補助金を出しますという条例の場合には、一定の範囲内で特定類型についての活動のみに補助金を出しますということはあっても良いでしょう。しかし、市民活動センター全体の利用規制に特活法上の規制を入れることを条例として決めることは、僕は止めたほうが良いと思います。条例上違法ということになってしまいます。もちろん、その条例が憲法違反でないか、という問題は残りますが。
できる限り、解釈上で規定の悪用をされないようにするべきですし、そのような条例に規制をあまりきちんと考えずに入れたりしない方が良いですね。集会施設の利用等の憲法上の権利を市民活動促進条例によって狭めることは、市民活動疎外条例になりかねません。そういうことは、決してやってはいけないということを考えてほしいと思います。

来場者
国家戦略特区法ではNPO法人の縦覧期間が大幅に短縮され、既に福岡市、仙台市、兵庫県で実施されています。縦覧期間短縮を勝ち取るにあたって、NPOができることがありましたらご教示いただきたいです。

(関口)
国家戦略特区のメニューの一つとして、NPO法で原則2ヶ月とされている設立申請書類や定款変更書類の縦覧期間を2週間に削減するという特例ですね。これが人気で、他自治体からも続々と手が挙がっているようです。特区の提案は自治体が行いますので、所轄庁に働きかけていくことがまず必要だと思います。議会の方から質問をしてもらうなどもありだと思います。

(今田)
まとめということではありませんが、市民活動と政治との付き合い方については、ルールがまだ未形成だと思います。政治上の主義と施策の違いは特定非営利活動法人ムラの区別に過ぎないというコメントもありましたが、確かに線引きの問題はあり、フォーラム前半の議論で一定程度明確にできたのではないでしょうか。それでもグレーゾーンは残っています。
昨日私が参加した民間支援センターの会議でも、主義と施策の区別は良く分からない部分があるという議論があり、自由主義・議会主義・民主主義も入り、良く分からないところについて、概念の整理が必要かもしれませんし、そもそも区別を取り払うというオプションも含めて検討せねばならないと思います。
いずれにせよ、市民活動を行う人達が政治や宗教を敬遠してきた経緯がありますが、時代は変わっており、社会課題を解決するという目的を掲げるならば、政治活動に入り込んでいかなければならない分野もあるということだと思います。本日は石川さんから難民支援という特定分野のお話をいただきましたが、政治との付き合いというものが非営利セクターとしても必要だということです。そして、政治との付き合いのルールについてはっきりしている部分、変えなければならない部分、未開拓の部分、特定非営利活動法人以外の民間非営利セクターとも協働して成立させなければならない部分など、課題は多いと思います。
NPO法施行から17年。NPOはまだ歴史的に根付いているとはいえず、社会の成長とともに議論を深めていくことが、この場に集まった一人ひとりのやるべきことだと思います。
あらためまして、パネリストとしてご登壇いただいた皆様、コメンテーターの関口さんに拍手をもって御礼を申し上げます。
(関口)
最後に一点。本日のパネリストは皆様ボランティアでご登壇いただいております。また、皆様認定NPO法人です。ということは寄附金控除があります。そして今日12月1日から寄付月間です。ぜひパネリストの所属団体にご支援をいただけますと幸いです。