公益法人制度改革(新制度の概要)に関する意見

2005年12月26日、内閣官房行政改革推進事務局が「公益法人制度改革(新制度の概要)」を発表し、2006年1月20日までの期間でパブリックコメントを募集しています(詳しくは行政改革推進事務局 / シーズ=市民活動を支える制度をつくる会)nこれに対し、当センター副代表理事、山岡義典が、「公益法人制度改革(新制度の概要)に関する意見」をまとめましたので、ご紹介しますなお、このほかに、以下の団体・個人らが意見書を提出しています。
財団法人 公益法人協会
財団法人 さわやか福祉財団
松原明氏(シーズ=市民活動を支える制度をつくる会)
「公益法人制度改革(新制度の概要)に関する意見」
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山岡義典
法政大学教授
特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事
該当項目:1?1、1?2、1?3、1?4、2?1、2?2、2?3、2?4、2?7、3?2、3?4、3?5、3?8、4n
意見の概要
1. 一般的な非営利法人制度
1?1 総則的事項n一般的な非営利法人は、「分配することを目的としない」だけでなく、「分配をしない」ことを明記すべき。必要なら、別に「分配できる」法人類型を特別のものとして設ける。
1?2 社団形態の法人
機関についての詳細規定は行き過ぎ。法では基本的事項のみを定め、任期等の詳細は民間組織の独自性に委ねるべき。基金については硬直的で使えないので根本的に再検討すべき
1?3 財団形態の法人
機関についての詳細規定は行き過ぎ。法では基本的事項のみを定め、任期等の詳細は民間組織の独自性に委ねるべき。財団形態は公益性を有する法人のみに限ることが望ましい。
1?4 清算n一般的な非営利法人の清算時の残余財産は、定款の定めに従って同種の目的をもつ非営利組織または国庫に帰属するものとし、総会等での構成員等への分配決定は禁止すべき。
2.公益性を有する法人の認定等に関する制度n
2?1 総則的事項n公益性の認定は「民間有識者からなる独立した委員会の判断に基づいて」行うことを明記すべき。都道府県における認定についても同じ
2?2 認定基準等及び遵守事項n目的・事業における企業との競合要件は「営利を目的とする事業活動は行わない」で十分。帳簿書類などの閲覧は行政庁が責任をもって行うべき。その書類から「事業計画」は外す。
2?3 認定の手続等
認定は民間有識者による委員会が独立して行うべきもので、「行政庁による関係行政機関の長からの意見聴取」はすべきでない。これでは主務官庁制のタテ割りが温存される。
2?4 行政庁による監督
監督については、行政庁の裁量によることのないよう、その手続きや判断基準を明確に法に書き込むべき。認定の取り消しは民間有識者による委員会の判断による
2?7 公益的事業
事業項目の列挙は必要ないと判断するが、もし列挙するなら特定非営利活動促進法における特定非営利活動の項目に準じることとし、公益概念の混乱を来たさないよう工夫する。
3. 現行公益法人の新制度への移行
3?2 移行期間の設定及び移行期間満了日を経過した特例民法法人の取り扱い
準則主義によって設立可能な法人への移行に「認可」は不要である。
3?4 特例民法法人から公益認定法人への移行
認定申請にあたっては主務官庁を経由すべきではない。
3?5 特例民法法人から通常の社団等への移行n準則主義によって設立可能な法人の移行に、主務官庁の経由も行政庁の認可も不要である。財産規制については、非分配原則を確立しておけば事後の措置や監督は不要。
3?8 その他
新しい非営利法人への移行だけでなく、特定非営利活動法人や社会福祉法人等の非分配原則を確立している法人への移行も可能とするよう、財産の継承等の措置を定める。
4. その他
現行公益法人の移行が完了する施行5年後において、制度の見直しを行うことを付則において明記すべきである。
「公益法人制度(新制度の概要)に関する意見」本文
2006年1月19日
山岡義典(法政大学教授/日本NPOセンター副代表理事)n
 2005年12月26日に発表になった「新制度の概要」は、まさに「概要」であって、これがどのような形で法文化されるか不明な点が多い。法体系の説明や法案要綱の提示があれば判断できることも多いと思われるが、それも叶わないので、ここでは「概要」から想定される範囲で、その各項目について意見を提出する。 ただし項目ごとのコメントの羅列では主張する趣旨が分かりにくいので、特に重要な点に絞ると、次の8点となる。
1. 一般的な非営利法人においては非分配の原則を貫き、解散時における残余財産の関係者への配分を禁止すること。(分配可能な法人類型を別に定めることは可)
2. 一般的な非営利法人における機関のありようなどは、任期等について詳細に規定することはせず、民間組織の自主性に委ねること。 3. 公益性を有する法人の認定は、行政から独立した民間人による第三者機関の判断によって行うこと。 4. 認定手続きにおいて、関係行政機関の長からの意見聴取は行わないこと。 5. 公益性を有する法人の帳簿書類等の閲覧や謄写については、認定に関わる行政庁が責任をもって行うべきで、法人の事務所では一定の範囲に限定すべきこと。 6. 現行の公益法人から新しい非営利法人に移行するに当たっては、主務官庁は経由しないこと。
7. 現行の公益法人については、新しい非営利法人への移行だけでなく、特定非営利活動法人や社会福祉法人などの非分配原則を貫く法人への移行も可能とすること。 8. 現行の公益法人の新制度への移行が完了する施行後5年目を目途に、制度の見直しを行う規定を付則に定めること。
[以下、項目別意見]
1.一般的な非営利法人制度
1?1 総則的事項n一般的な非営利法人については、(注1)において「法人は、余剰金を社員または設立者に分配することを目的としないものとする」と記しているが、「分配をしない(できない)」ことは明記していない。後の記述から判断すると実際には「分配できる」法人類型であることが推測されるが、これは非営利法人として決定的な問題を生じる要因となるので、必ず「分配しない(できない)」ことを明確にしておくべきである。
なお、中間法人からの移行という点から「分配できる」法人類型が必要なら、別途区分してそれを設けるべきである。
1?2 社団形態の法人
設置する機関の任期等についての詳細規定は、民間組織の自主性を損ない、その運営を硬直化させるものとして行き過ぎと考える。法においては基本的事項のみを定め、その詳細は民間組織の独自性に委ねるべきである。なお、社団形態の法人のガバナンスについては、特定非営利活動法人に準じるのが適切と考える。
基金に関する定めは、何の目的で、どのような効果を期待して設けたのか意味が不明であり、「基金」という用語も不適切である。初期投資や事業展開のための投資として出資を認めるなら、それにふさわしい仕組みを考えるべきである。基金というなら、将来の事業展開に備えて年度会計から引当により積み立て可能な基金の設定を認める制度を設けるべきである。返済を前提とする「出資」と将来の事業の備えとしての「基金」を混同させたこのような仕組みは、使いものにならず、むしろ誤解や混乱を招く恐れがある。
1?3 財団形態の法人
社団形態の法人と同様に、機関についての任期等の詳細規定は行き過ぎと考える。法においては基本的事項のみを定め、その詳細は民間組織の独自性に委ねるべきである。なお財団形態の法人については、公益性のある法人に限るのが適切と考える。少なくとも、設立者や寄付者に分配可能な財団形態の法人は、絶対に設けてはならない。
1?4 清算n文中の(2)に「清算中の法人の社員総会若しくは評議員会の決議によって帰属が定まらない残余財産」という表現があるが、これがもし「清算時においては、その残余財産は社員総会や評議員会の決議によって(自由に)帰属を決めることができる」ことを前提にしたものであれば、大きな問題が発生する。一般的な非営利法人の清算時の残余財産は、定款の定めに従って同種の目的をもつ非営利組織または国庫に帰属するものとし、社員や設立者や寄付者への分配は禁止すべきである。上記の表現が、その前提の範囲内での社員総会等での決議を意味するなら問題はない。清算の規定は、特定非営利活動法人に準じるのが適切と考える。
2.公益性を有する法人の認定等に関する制度n
2?1 総則的事項n公益的事業における「不特定かつ多数の者の利益」については、その「不特定」や「多数」の意味が限定的・硬直的に用いられることのないように注意し、特定非営利活動促進法における場合に順じ、幅広い意味に解釈すべきである。公益性の認定における「有識者からなる合議制の委員会」は「民間有識者からなる行政から独立した委員会」とし、単に行政庁に意見をするだけの役割ではなく、英国におけるチャリティ委員会と同様の性格を有する判断主体とすべきである。都道府県における認定の仕組みも同様である。
2?2 認定基準等及び遵守事項n目的・事業における企業との競合要件は、「営利を目的とする事業活動は行わない」で十分である。表現次第では、その対価性ある事業に意味のある法人を、公益性を有する法人から排除しかねない危惧をもつ。非営利組織が企業と一見同じような事業をしていても、営利を目的に行う場合と社会的な使命を目的に行う場合では、その意義や役割や効果が異なることは多い。
財務等については、「必要な限度を超えて内部留保を保有しないこと」が示されているが、「必要な限度」の解釈にあたっては個別に事業内容を十分に吟味すべきである。長期的な計画を実現するために引当金あるいは基金として毎年度の収入から積み立てを行うことなどが制約されることのないよう、規定すべきである。認定制度の適切な運営のためには情報公開が鍵になるが、帳簿書類等の一般の閲覧や謄写は行政庁に提出された帳簿書類によって、行政庁が責任をもって行い、法人の事務所における閲覧や謄写は、社員・役員・寄付者・取引関係者などに限定すべきである。一般の人への閲覧やその謄写を法人の責任においてその事務所で行わせることは、当該法人への嫌がらせなどで何が起こってくるか分からず、その活動を大きく損なう可能性がある。
なお、事務所に備え付けるべき帳簿書類として「事業計画」が例示されているが、これは「事業報告」の誤記ではないかと思われる。誤記でないならば「事業計画」は削除し、「事業報告」を追加すべきである。情報公開で必要なのは、「何を行おうとしているか」ではなく、「何を行ったか」ということであるからである。
以上を含め、情報公開の方法については、特定非営利活動法人の情報公開に準じるのが適切と考える。
2?3 認定の手続等
「認定に当たっての行政庁による関係行政機関の長からの意見聴取」について書かれているが、これは絶対に避けるべきである。このような意見聴取を行う制度を設けると、従来の主務官庁制によるタテ割りの弊害を温存することにつながり、今回の抜本改革の趣旨は挫折する。公益性の認定は、関係行政機関の判断とは関係なく、民間有識者による委員会が独立して行うべきものである。
なお認定の手続きにあたっては、一定期間の申請書類の閲覧を行うとともに、審査期間については、例えば4ヶ月以内と法に明記すべきである。この手続きも、特定非営利活動法人の認証手続きに準じるのが適切と考える。
2?4 行政庁による監督
監督については、行政庁の裁量によって行われることのないよう、その手続きや判断基準について法に明確に書き込むべきである。
また、認定の取り消しは民間有識者による委員会の判断によるべきであり、行政庁単独の判断で行ってはならい。
2?7 公益的事業
公益性の認定に事業分野の限定は必要ないと判断するが、もし事業分野を列挙する必要があるなら、特定非営利活動と同一の事業項目の列挙とするのが適切である。同一あるいは類似の用語が法律によって微妙に異なる意味で用いられると、法的な公益概念に混乱を来たす。そうならないよう、十分な配慮が必要である。
3. 現行公益法人の新制度への移行
3?2 移行期間の設定及び移行期間満了日を経過した特例民法法人の取り扱い
「公益性の認定を受けない通常の社団又は財団への移行の認可の申請」とあるが、準則主義によって設立可能な法人への移行に「認可」は不要である。
3?4 特例民法法人から公益認定法人への移行
 公益性認定の申請にあたっては、主務官庁を経由せず、行政庁に直接すべきである。現行法人から新しい非営利法人への移行に際しては、定款や寄付行為の改正が必要となるが、その場合、異なる主務官庁の法人が合併して移行することも含め、主務官庁の枠に絞られた事業目的から解放されるところに今回の制度改革の大きな意義がある。行政改革として行われる法人制度改革の趣旨を実現する上からも、主務官庁の尾?骨を残さず、主務官庁とは切り離して移行を進めるべきである。
3?5 特例民法法人から通常の社団等への移行n準則主義によって設立可能な法人の移行に、主務官庁の経由も行政庁の認可も不要である。公益性の認定を行う行政庁が、一般的な非営利法人の設立について何らかの判断をすることは、混乱のもとになる。
通常の社団等に移行した法人に対しては、「純資産に相当する額など一定の額を、移行認可後、国、地方公共団体等に寄附するか、当該法人が実施していた事業等(付随的な収益事業を除く。)に使用する」との財産規制を設け、「その適正な運用確保のために必要な範囲内で行政庁は監督を行う」こととしているが、法人制度として非分配原則を確立しておけば、このような監督は不要である。そもそも、公益性の認定を行う行政庁が一般的な非営利法人の財産使用まで監督しつづけることは現実的ではなく、混乱を招くだけである。現在の社団法人の中には、業界団体や同窓会などで多額の資産(土地・建物)をもつものがあり、その多くは共益性が強く、想定される要件では公益性の認定が困難なものが多い。上記の措置では、それらの資産がそのままでは使えない可能性が高い。また一般的な非営利法人に移行して解散し、その財産を処分することができれば、大きな利権が生じる。それを回避するためにも、通常の社団等における非分配原則の確立は必須である。
3?8 その他
現行の公益法人からは、新しい非営利法人への移行だけでなく、特定非営利活動法人や社会福祉法人などの非営利・公益法人への移行もできるよう、財産の継承等の措置を定めるべきである。準則主義で設立可能な新しい非営利法人に移行できるなら、認可等によって設立され非分配原則を確立している法人への移行を認めることは、全く問題ないはずである。このことによって、現行の公益法人は将来に対して複数の法人種別の選択肢をもつことができ、そのことによって、法人制度の使いやすさの競合が生まれることにもなる。
4.その他
新しい非営利法人制度については、その問題が現段階では必ずしも明確に認識できていない可能性がある。また施行してみてはじめて新しい問題が顕在化する可能性もある。現行の公益法人の移行が完了する施行5年を目途に、それまでの運用実績の評価を行って制度の見直しを行うこととし、そのことを法の付則に明記しておくべきである。