「休眠預金等に係る移管及び管理並びに活用に関する法律案」に対するパブリックコメント

以下は、「休眠預金活用推進議員連盟」(会長 塩崎恭久衆議院議員)が、2015年5月22日から6月20日に募集した「休眠預金等に係る移管及び管理並びに活用に関する法律案」に対するパブリックコメントに対して、6月20日に送ったコメントです。
休眠預金の活用に関する議論の参考になれば幸いです。

日本NPOセンター
代表理事 早瀬 昇

 

「休眠預金等に係る移管及び管理並びに活用に関する法律案」に対するパブリックコメント

認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター 代表理事
社会福祉法人 大阪ボランティア協会 常務理事
早瀬 昇

 以下に私の意見をお送りします。なお私は公益財団法人 公益法人協会の理事も務めており、先に同協会 太田達男理事長が発表されたパブリックコメントの内容に基本的に賛同しております。そこで、太田理事長のパブリックコメントとの重複は避け、太田理事長が触れられていなかった点および補足的に解説すべきと判断した点について意見をお送りします。

 

1. まず「休眠預金」の発生を抑制する取り組みを徹底すべきです

いわゆる「休眠預金」が金融機関の益金として処理されることに違和感を抱く人々は多く、より広く社会に還元する「社会的活用」の仕組みを導入する意義は大きいと考えます。今回、この法律案策定に尽力いただいた議員連盟所属の議員の皆さまや市民の立場から本制度創設に努力した皆さまに、敬意を表したい思います。
また、元々、市民が所有する預金であり、この預金を「行政か?対応することか?困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として、民間の団体か?行う公益に資する事業」に資するという形で、民間の活動を後押しするように活用する仕組みとなっていることに強く賛同します。社会の課題解決における行政の役割も重要ですが、民間の取り組みには専門性、多様性、創造性、効率性などの点で行政を上回る能力を持つものも多く、その特性を活かすために活用されるべきだと考えるからです。
ただし休眠預金は、元来、「資金の元来の所有者に、本制度に資金活用を託す“意志”がない」資金であり、このような資金の活用にあたっては、まず徹底的に休眠預金が生まれないように努力し、その上で已むを得ず休眠預金として扱わざるを得ない預金に関してのみ、社会的課題解決のために活用する仕組みとすることが必要です。
つまり、まず、できるだけ休眠預金が生まれないようにするため、
a. 休眠預金の存在を広く広報し、自らに関わる休眠預金を容易に検索できる仕組みを整備する
(これにより、たとえば、休眠預金が生まれる主要な原因の一つとされる親が子ども名義で開設した口座が相続時に気づかれない…などによる休眠預金の発生を、極力、抑制する。またインターネットによる検索だけではデジタルデバイドが起こる懸念があり、この点も考慮した対策も検討する)
b. 休眠預金が生まれやすい原因を調査し、その原因を除去するための方策をとる
(たとえば、古い印鑑を紛失したため休眠預金払い戻しの手続きが取りにくいなどの事務的なハードルを極力少なくするなど、休眠預金払い戻しにあたっての障壁を減らす)
などの取り組みを進め、休眠預金を徹底的に減らす努力を進めることが必要です。こうした対策を実行し、それでも休眠預金となったものだけを対象に今回の施策を実行するようにしなければ、制度そのものに対する信頼が醸成されないと考えます。

 

2.「休眠預金」の活用申請が門前払いされる事業を減らすべきです

(1)「国民一般の利益の増進に資する」という表現について

法律案の基本理念第一項では、休眠預金等交付金に係る資金は、「行政か?対応することか?困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体か?行う公益に資する事業であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の増進に資するもの」に活用するものとされています。先に述べたように、ここで「民間の団体か?行う公益に資する事業」としている点は高く評価します。
しかし、休眠預金は日本国籍以外の人の預金からも生まれうるものであることをふまえれば、「国民一般の利益」だけを考慮するのではなく、元来は日本も含む地球規模での社会課題に関わる事業全般にも活用されるべきであり、百歩譲っても、「日本社会に暮らす人々の利益」など、多文化共生の時代に対応した表現に修正することが必要だと考えます。なお、ここで「人々一般」とせず、「人々」という表現を提案するのは、「一般」という言葉が加わることで、すべての人々に共通する最大公約数的なニーズに対応する事業だけに限定され、一見、被益者が少ないように見える難病患者などをサポートする事業などが排除されることを避けるためです。

(2)「公益に資する事業」の範囲について

次に、基本理念第一項の表現は、基本的に休眠預金が活用される範囲を幅広く設定できるように読めるにも拘らず、その次の項で「公益に資する事業」を
a. 生活困窮者その他の日常生活又は社会生活を営む上て?の困難を有する者の支援に係る事業
b. 子と?も・若者の支援に係る事業
c. 地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る事業
d. a~cまでに掲げるもののほか、内閣府令で定める事業
と限定し、a~cの分野に優先的に活用する仕組みとなっている点には疑問を感じました。
そもそも、本来の所有者の「意志が示されていない」資金を活用する以上、その使途の限定は、元来、できるだけ避けるべきです。しかも、a~cに列記された分野の事業は、生活困窮者自立支援法、子どもの貧困対策推進法、まち・ひと・仕事創生法などによって政府も対策を取らねばならない事業と重なっており、そのような事業分野を優先することが政府・自治体が対応すべき施策の肩代わり・穴埋め・補完となりかねない恐れがあります。
もっとも、だからといって一定の限定をしなければ、あらゆる事象が「成果を収めることにより国民一般(⇒少なくとも「日本社会に暮らす人々」などの表現への修正を希望)の利益の増進に資する」と説明しうることから収拾がつかなくなり、それこそ「行政か?対応することか?困難な社会の諸課題の解決を図る」という理由で、“政府が容易に予算化することのできない”一時のイベントなどに莫大な資金が投じられる……などといったことになりかねない懸念もあります。
そこで、現在の「公益に資する事業」の範囲を可能な限り柔軟に解釈し、かつその運営を地域で課題解決に取り組む団体の応援に日々あたっている資金分配団体の判断に委ねる運営形態をとることが必要です。この柔軟な解釈とは、たとえば「日常生活又は社会生活を営む上て?の困難を有する者の支援に係る事業」として、災害被害者、難民、性同一性障害で苦しむ人々、社会復帰の困難に直面している刑余者、その他人権上の課題にさられされている人々などを支援している事業や、消費者保護やいわゆる中間支援の事業など間接的な取り組みも含めること。また「社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る事業」として、過疎化に苦しむ地域だけを想定せず、都市部でも各種の課題に直面している地域を支援する事業も含めるほか、その方法として文化芸術活動の伝承や発展、環境の保全活動、多文化共生活動、男女共同参画に関わる活動なども排除しないことが必要です。
なお、以上は貸付や助成などの候補団体として応募する場合に「最初から“門前払い”する事業を減らすべきだ」ということであり、実際に休眠預金を活用する事業として選定する際には、その成果の社会的インパクトの大きさ、事業の質、関与する市民の多さを通じて市民が社会問題に対する当事者意識を高める可能性などを厳しく審査することが必要であることは言うまでもありません。

 

3.休眠預金等活用審議会について

法律案によれば、本制度の運営方法を詳細に詰めるのは本審議会となりますから、本審議会の運営が公開され、本制度の運営に対する預金者の信頼を高めることが必要です。
そこで、かつて「新しい公共円卓会議」などの運営で導入されたように、審議会時に配布する資料や審議会委員が提出する資料を事前にインターネット上で公開するとともに、審議会当日の様子をリアルタイムでネット公開するなど、情報公開の徹底に努め、本制度の運営が公正になされていることを、広く周知するとともに、公聴会の開催やパブリックコメントの実施などにより、預金者からも広く意見を求めることが必要です。

以 上