【開催報告】会員サロン「NPOが取り組む被災者支援制度改正~現状とこれから」(2023年8月3日開催)

日本NPOセンターでは、多彩な活動をされている会員同士の交流・意見交換や、NPOにまつわるホットトピックについての情報交換のために会員サロンを開催しています。

2023年度三回目の会員サロンでは、自然災害の被災者支援制度の改正を目指す「3.11から未来の災害復興制度を提案する会(通称:311変える会)」の阿部知幸さんと菅野拓さんから、活動の経緯、提案内容、成果、そして今後の展望についてお話しを伺いました。

311変える会の取り組みは、日本NPOセンターも東日本大震災復興支援事業のひとつ「タケダいのちとくらし再生プログラム」を通じて支援してきました。7月には、議員会館で院内集会を開催しました。制度改正のための本格的な活動がこれから始まるというタイミングでの会員への皆さまへの活動紹介となりました。

阿部さんは、東日本大震災を契機にNPOで被災者支援を始めました。被災者の相談を受ける中で、住居の被害状況が被災者支援の基準となる現行の制度では、被災者一人ひとりに寄り添った支援をするには不十分なことを実感。「災害ケースマネジメント」のアプローチを提唱し、個別の生活再建ニーズに対応することを基本とした制度改正を求めています。

311変える会は、これまで全国各地の災害対応の専門家と議論を重ね、被災者支援制度改正の具体的な提言内容を磨いてきました。菅野さんは、戦後GHQが作った現行の被災者支援制度は、①福祉的な支援が想定されていない、②平時では民間が担い手となる分野を災害時は専門外の自治体が担っている、③社会保障のプロが災害時に活躍の場がないと指摘しています。

そのうえで、①企業やNPOなど、政府以外の担い手も体制や財源の公的な根拠をもって自律的に災害対応に参画すること(災害対応のマルチセクター化)と、②社会保障の制度体系の中に被災者支援を位置付けて平時の社会保障の担い手たちが被災者支援を行う(社会保障のフェーズフリー化)ことを提唱しています。具体的には、①個人の尊厳の保持を災害対策の目的にし、福祉を災害救助法に位置付ける、②民間と連携した被災者支援を基本とする。③社会保障関係法に被災者支援を位置づけ平時から人材育成を行うことを提案しています。

菅野さんによれば、311変える会の働きかけの結果として、内閣府の担当者の災害救助の対象についての意識がモノ(避難所など)からヒト(被災者)へと変わってきたようです。国会の首相答弁で災害ケースマネジメントが言及され、防災基本計画にも規定されることになりました。ただ、災害ケースマネジメントをどこでも実現するためには、法改正によって根拠や財源措置を規定する必要があります。菅野さんは、これを今後1年から2年の間に実現したいと言っています。そして、日本NPOセンターの会員の皆さんには、各地の地域防災計画の策定過程に関わったり、地域の福祉制度に被災者支援を組み込んでいくことを提言したりしてほしいと言いました。

阿部さんは、10年間の被災者支援活動を振り返り、人々の被災者支援に対する意識が変わりつつあることを感じていると言いました。7月の院内集会では、議員連盟の設立が進む兆しを感じ、内閣府以外にも働きかけの窓口ができることを期待していると言いました。そしてサロンの参加者に向けて、311変える会の活動を支持し、地域イベントに参加し、声を発信していくことをお願いしていました。

最後に参加会員の皆さまからの感想も紹介させていただきます:

・ このテーマを待ち望んでいました。次は原発避難者の援護法に取り組んでほしいです。
・ 阿部さんの情熱と菅野さんの的確な説明に感銘を受けました。さまざまな障害にも関わらず、意識改革を進める姿勢に感銘しました。
・ 今回の会員サロンが、全国の声として現行制度の見直しの契機となればと思います。
・ 声のない声を結集し、全国的なムーブメントを築く重要性を感じました。これがNPOの役割であり、NPOが果たすべき姿勢だと思います。

「3.11から未来の災害復興制度を提案する会」
https://311kaerukai.net/ 

登壇者プロフィール

阿部知幸さん(「3.11から未来の災害復興制度を提案する会」代表)
特定非営利活動法人フードバンク岩手 副理事長/事務局長
一般社団法人 全国フードバンク推進協議会 理事

東日本大震災をきっかけに民間企業よりNPOの世界へ転身。被災者支援を継続していくながで、生活にこまっている方々への支援のひとつとして食料支援を開始すると同時に岩手県で食のセーフティーネットを構築するために、2014年フードバンク岩手を設立。岩手県内の行政や社会福祉協議会等の生活困窮者相談窓口からの年間約2000件に及ぶ食料支援要請に対応。食品ロス削減推進法の充実・被災者支援の制度改正にも取り組み中。

菅野拓さん(「3.11から未来の災害復興制度を提案する会」コアメンバー)大阪公立大学大学院 文学研究科 准教授 

専門は人文地理学、都市地理学、サードセクター論、防災・復興政策。近著に『つながりが生み出すイノベーション―サードセクターと創発する地域―』、『災害対応ガバナンス―被災者支援の混乱を止める―』(いずれも単著、ナカニシヤ出版)。NPOなどサードセクターの活動を継続的に調査・実践している。また、近年の大規模災害を踏まえ、被災者生活再建支援手法のモデル化を行う。最近の主な委員として復興庁「多様な担い手による復興支援ビジョン検討委員会」ワーキンググループメンバー、内閣府「被災者支援のあり方検討会 」委員、厚生労働省・内閣府「医療・保健・福祉と防災の連携に関する作業グループ」参考人、熊本市「復興検討委員会」委員など。

日本NPOセンター会員サロン(※会員の方が対象です)

日本NPOセンターが毎月開催する同センターの会員限定イベントです。会員サロンは、会員同士の交流・意見交換や、NPOにまつわるホットトピックについての情報交換のための場を提供します。

※本サロンは会員限定です。お申込み時に入会いただければこの会から参加できます。会員制度・入会手続きはこちらをご参照ください。
https://www.jnpoc.ne.jp/?page_id=603