東日本大震災現地NPO応援基金[特定助成] 「JT NPO応援プロジェクト」第8回助成 選考結果について

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東日本大震災現地NPO応援基金[特定助成] 「東日本大震災復興支援 JT NPO応援プロジェクト」 の第8回選考を行い、下記の通り決定いたしました。

助成先一覧

No. プロジェクト名/団体名 所在地 助成額
(単位:万円)
8-1 大槌町の若手世代対象:自分の町の魅力(再)発見事業
一般社団法人 おらが大槌夢広場
岩手県
陸前大槌町
500
8-2 被災地の人的資源と連携した自立的長期メンタルヘルス支援サービスの構築
認定特定非営利活動法人 心の架け橋いわて
岩手県
盛岡市
485
8-3 長屋門で地域再生~古民家活用モデル構築~
くりはらツーリズムネットワーク
宮城県
栗原市
470
8(継)-1 いいたてミュージアム-までいの未来へ記憶と物語プロジェクト-2015
いいたてまでいの会
福島県
福島市
398
8(継)-2 福島県の子どもたちに過疎地域を活かした安心保育環境を提供する事業
特定非営利活動法人 移動保育プロジェクト
福島県
郡山市
323
8(継)-3 福島県いわき市におけるコミュニティづくり応援事業
認定特定非営利活動法人 シャプラニール=市民による海外協力の会
福島県
いわき市
317

助成件数:6件(新規3件、継続3件) 助成総額:2,493万円(新規1,455万円、継続1,038万円)
*第8回助成は2015年4月15日までの応募について5,6月に選考し助成が決定したもの。
*助成期間は2015年7月1日から2016年6月30日までの1年間。
*いいたてまでいの会、移動保育プロジェクト、シャプラニールは第4回助成対象団体で何れも継続して助成することとなった。

選考総評

選考委員長 大橋正明

[JT NPO応援プロジェクト概要]
 「東日本大震災復興支援 JT NPO応援プロジェクト」は、認定NPO法人日本NPOセンターが2011年3月から行っている「東日本大震災現地NPO応援基金」に対して、日本たばこ産業株式会社から寄付を受け、「特定助成」として2013年8月から実施している資金助成事業である。過去7回公募を行い、2015年6月末現在で、延41団体に助成している。(24団体が助成期間中) なお、2014年10月より助成開始した第5回助成から新規助成と1年間の事業を終えた事業への継続助成の2本建てとなっている。

[応募状況と選考プロセス]
第8回助成(助成期間2015年7月1日~2016年6月30日)は、2015年2月より告知を開始、応募受付期間は2015年4月1日~4月15日であった。新規助成の応募件数は、計60団体であった。応募事業の活動地域別内訳は、宮城県が最も多く、岩手県、福島県が同数であった。団体の所在地は宮城県が最も多く、次いで岩手県、福島県と続く。60団体のうち、過去7回の本助成に応募したのは18団体であった。今回の応募団体には、東日本大震災後に被災地で結成された団体が多かったことが特徴である。一方継続助成については、対象となる第4回助成6団体のうちの5団体、第3回助成で一旦助成を終了した7団体のうちの1団体、合計6団体から応募があった。

新規助成の選考プロセスは、これまでと同様にまず事務局による予備審査で応募要件等に基づいて慎重に検討を行い、選考委員会において選考すべき21件を選出した。その後選考委員がこの21件について事前に書面評価を行い、その結果を基に全員参加の選考委員会の場で審議を行い、助成にふさわしいと思われる5団体を選出した。その後、事務局スタッフがこれら5団体を訪問し、活動状況や選考委員会から説明を求められた疑問点等について詳細な聞き取りを行った。このインタビュー結果を選考委員長に報告し、最終的に決裁を行い、助成事業3件を決定した。助成額合計は1,455万円であった。

継続助成は、これまでの活動実績なども踏まえて同日に選考委員会で審議を行い、継続助成がふさわしいと考えられる団体を3団体選出、新規助成と同様に事務局による聞き取りを行ったうえで、選考委員長にその結果を報告し決裁を経て、助成事業3件を決定した。助成額合計は1,038万円であった。新規と継続をあわせての助成は、6件で助成金額は2,493万円となった。

※継続助成の応募団体である特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会の選考は、小職が利害関係者に該当すると考え、委員長を除く4名の選考委員で書面および委員会審議を行い、助成候補として選定した。最終決裁は、代理として栗田委員にインタビュー結果を報告して判断を依頼し、助成を決定した。

[選考における議論のポイント]
 今回も応募要項に記載しているJT NPO応援プロジェクトの5つ選考基準*1をベースに審議を行った。

*1≪JT NPO応援プロジェクト選考基準≫

地域性:活動する地域のニーズを把握、事業の内容がそれらに基づいて組み立てられているか
参加性:地域の人々や外部からのボランティア等の参加が期待できるか
連携性:地域の他の団体、企業、自治体等と協力して事業が実施されるか
実現性:目標設定、目標に対する計画、予算等が適切で実現性が高いか
継続性:参加する人々の主体性を育て、活動する地域への長期的な貢献を行なえるか

なお継続助成については、上記の選考基準に加えて、1年目事業の活動実績や目標達成状況なども評価した。

 今回の審議過程において議論の主なポイントになったのは次の2点である。この2点について、ある一定程度の回答を出していた事業は、概ね高く評価された。

 第1のポイントは、「事業の対象者・関係者の顔が見える、声が伝わってくるか」である。地域のコミュニティ再生の担い手は、高齢者からこどもまで地域や事業の内容によって様々である。また、各地域の状況は、震災前から存在する課題と震災後に生まれた課題が混在化、地域によって復興の政策・活動の進展の度合いの差が生まれており、より複雑化している。この状況においては、これまで以上に事業の対象者、協力者・関係者が明確であり、これらの人々の置かれている状況、具体的な意見や考えが事業の内容や進め方にどのように反映しているか、それが明確に表現されていることが必要となってくる。

 第2のポイントは、「事業のアイデアを支える計画等に具体性があるか」であった。今回に限らずだが、応募いただく事業は地域の課題のとらえ方、その解決策について独自性があり、期待が持てる取り組みが多い。しかし、その魅力的な取り組みを「誰が」「どのように」「どんな方法」で実施するのかについて、その根拠となる「実施計画」「予算の組み立て」「実績の説明」などが充分でない場合が多くあった。助成金申請に限らず今後強く求められることのひとつは、事業の意義や意味、その実現性の高さを、自分の団体のスタッフ・メンバーや事業の協力者・関係者はもちろん、もう一つ先の潜在的支援者・応援者にいかに伝えられるかである。明確に伝えるためにはアイデアの独自性だけではなく、これを支える具体性が必要となってくる。

 本プロジェクトは今回の第8回助成で2年目が終了し、次回から3年目に入る。応募いただく事業内容から地域住民の抱える課題は、震災復興の課題と従来の地域課題が混淆されているという印象は回を重ねるごとに強くなっている。一方で発災から5年目を迎えてもなお復旧から復興の段階にさえ達していない、あるいは復興の段階に至っても、公営住宅への移行等の状況の変化によって新たな混乱が生じて、その結果、長く停滞している地域の存在も窺える。いずれにしても、1つの団体が課題に取り組むことでだけ解決に結びつけていくことは非常に困難になりつつあり、地域住民の参加や行政、企業、他NPOや個人と協力を得ながら取り組む姿勢がさらに重要になっている。
 事業を通して、地域住民の参加、組織の連携・協力が促進され、継続的な活動により地域の将来を明るくする取り組みの支援につながることを強く願っている。

【選考委員】
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助成概要と選考理由

【新規助成】

テーマ 大槌町の若手世代対象:自分の町の魅力(再)発見事業
団体名 一般社団法人おらが大槌夢広場
代表者 代表理事 臼沢 和行
助成額 500万円
選考理由  おらが大槌夢広場は、東日本大震災で甚大な被害を受けた大槌町民の生活再建と産業発展のために、町民たちが結成した団体である。これまで復興ツーリズム事業により多くの来訪者を受け入れ、交流人口を増やし、継続的に活力のあるまちづくりに取り組んできた。
 今回の助成対象プロジェクトは、大槌町の高校生・大学生などの若手世代が町の魅力や可能性を再発見する仕組みを構築することで、将来的にUターンや定住人口を増やすことを展望した取り組みである。具体的には、地元高校生や大学生向けのインターンシッププログラム、大槌町と他地域の若者世代との交流プログラム、高校生の起業体験プログラムなどを実施する。
 外部人材と交流しながら、大槌町の将来を担う若手の育成に長い目で取り組もうとしており、他地域の復興のモデルにも成り得ることを高く評価した。若手が若手を育成する文化を醸成し、町の持続可能性が高まることを期待したい。

テーマ 被災地の人的資源と連携した自立的長期メンタルヘルス支援サービスの構築
団体名 認定特定非営利活動法人心の架け橋いわて
代表者 理事長 鈴木 満
助成額 485万円
選考理由  岩手県大槌町は震災により甚大な被害を受け、4年を経過した現在でも生活を支えるインフラ整備の遅れが目立つ。住民が分散して暮らす仮設住宅においては高齢者を中心にメンタルヘルスケアを要する問題も少なくないが、それを提供できる専門的な医療資源は圧倒的に不足している。
 今回の助成対象プロジェクトは2012年から大槌でのメンタルヘルスをサポートしてきた専門家チームによる訪問サービスと住民への予防的啓発の取り組みである。
 多くがこれまでの訪問先の継続支援であり、専門機関への受診に消極的であったり、通院が困難であったりするため、戸別訪問というアウトリーチ型の支援は不可欠なものと思われる。社会福祉協議会の生活支援相談員による日常的な訪問活動に加えて、精神的なケアが必要と思われる方々のもとに、月に数度ではあるが専門家が同行してサポートが行われ、当該住民のみならず生活支援相談員にとっても心強い支えになっている。これと並行して行われる講話や健康相談などにより、避難住民たちの健康維持への意欲が喚起されることを期待したい。

テーマ 長屋門で地域再生~古民家活用モデル構築~
団体名 くりはらツーリズムネットワーク
代表者 会長 小野寺 敬
助成額 470万円
選考理由  宮城県栗原市は、2008年の岩手・宮城内陸地震で栗駒山が崩落するなどの甚大な被害を受け、さらに2011年の東日本大震災では、沿岸部の津波被害に全国の関心が集まる中、震度7の烈震に見舞われた内陸部の被災地である。くりはらツーリズムネットワークは、この二つの大きな地震による実害と、原発事故による風評被害等によって失われつつある文化やアイデンティティーの再生に取り組んでいる。
 助成対象プロジェクトは、地域の特徴的な建造物である長屋門等を有する古民家の茅葺屋根の葺き替え等の改修や古民家を活用した手づくり品の販売、地元食を提供する飲食事業の実施などを通して、本来この地域が持つ「暮らしのワザ」などの地域文化の魅力を再発見し、豊かな暮らしを発信しようというものである。
 本プロジェクトを通じて、災害からの被害に負けず、むしろそれをチャンスに変えて、世代を超えて栗原特有のアイデンティティーを守り育てて行くことを期待したい。

【継続助成】

テーマ いいたてミュージアム-までいの未来へ記憶と物語プロジェクト-2015
団体名 いいたてまでいの会
代表者 共同代表 佐藤 彌右衛門
助成額 398万円
選考理由  福島県飯館村は、東京電力福島第一原発事故により、現在も全村避難が続いている。住民は村外の仮設住宅やみなし仮設等で避難生活を余儀なくされ、将来の見通しも立たない状況に置かれている。
 いいたてまでいの会の1年目のプロジェクトは、分散した住民から丁寧なインタビュー等を行い、住民が所有する有形無形のモノを収集して、飯館村文化祭のほか、東京・京都等で巡回展を実施した。2年目となるプロジェクトは、1年目の取り組みを継続させる他、フォーラムの開催や記録映像の編集、収集物の目録と「住民の生の声」を集約して発信するためのテキスト冊子の作成等を目指している。
 このプロジェクトを通じて、日に日に薄れていく故郷の歴史や文化、暮らしを語り継ぎ、コミュニティやアイデンティティーの維持を図ろうとする極めて貴重な取り組みである。また飯館村が抱える苦悩を全国に知らしめる機会にもなっている。何より、取材を受けた住民が、あふれ出る故郷への思いの丈を存分に語るなどして、日々の糧につながることを期待したい。

テーマ 福島県の子どもたちに過疎地域を活かした安心保育を提供する事業
団体名 特定非営利活動法人移動保育プロジェクト
代表者 理事長 上國料 竜太
助成額 323万円
選考理由  福島県では放射能に対する健康不安から、子どもたちとその保護者が安心して外遊びできる機会が少なくなっている。移動保育プロジェクトは、低線量な過疎地域へ移動して、地域の高齢者がじぃばぁ先生として協力し、小さな子どもたちを保育するプロジェクトで1年目の助成を受けた。
 2年目となる今回のプロジェクトは、1年目のプロジェクトに取り組む中で見えてきた、移動先の過疎地域の高齢者との交流面での課題を解決しようとするものである。高齢者に単に協力を要請するだけでなく、高齢者が抱える個々の状況やニーズを引き出す工夫も必要であろう。
 子どもたちを伸び伸び遊ばせたいという子育て世代のニーズは高く、郡山近郊の自然豊かな場所で保育プログラムを提供すると共に、このプロジェクトのもう一つの魅力である、過疎地域の高齢者による子育てへの参加と地域の活性化についても成果が上がるよう期待したい。

テーマ 福島県いわき市におけるコミュニティづくり応援事業
団体名 認定特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会
代表者 代表理事 岩城 幸男
助成額 317万円
選考理由  シャプラニールは、福島県いわき市において、相双地区からの避難者のための交流スペースの運営、借り上げ住宅入居者への個別訪問活動、首都圏への情報発信、「みんぷく」(3.11被災者を支援するいわき連絡協議会)での協働事業など、現地のニーズの変化に合わせて支援活動を展開してきた。
 1年目のプロジェクトでは、「みんぷく」を通じて、地元商店の協力を得て避難者といわき市民とが交流するサロン「まざりーな」の運営、情報誌の発行、災害公営住宅・復興公営住宅入居者へのケアなどに取り組んだ。
 2年目となる今回のプロジェクトでは、従来の活動を継続しながら、特に支援体制の弱い、いわき市の被災者を対象とした災害公営住宅のコミュニティづくり支援や、相双地区からの避難者による広域自治会のサポートに取り組む。
 シャプラニールは2015年度を現地での活動の最終年度としていることから、これまでの活動が地域で継続して取り組めるよう、自主グループや「みんぷく」などに引き継がれることを期待したい。