行政と協働するNPOの8つの姿勢

8 Postures of NPOs Partnering with the Government

はじめに

特定非営利活動促進法(NPO法)の法制化により、法人格を持つ団体が数多く誕生し、各地で多様な活動が活発に行われています。それらの団体が社会の信頼を受けて、元気に、NPOらしいNPOとして活動を進められることを願い、2003年に各地のNPO支援センターの現場を預かるものたちが「信頼されるNPOの7つの条件」を発表しました。
その後、NPOを取り巻く環境も少しずつ変化し、中でもNPOと行政による協働の取り組みについてはますます活発になり、その方法や内容も多岐にわたるようになってきました。しかし一方では、事業を行う中でさまざまな課題や問題が浮き彫りになり、その解決に向けた取り組みを求められているのが現状です。
そこで、私たち各地のNPO支援センターの現場を預かるものたちが、2006年11月22日に開催した「民間NPO支援センター・将来を展望する会(通称:CEO会議)」において、解決策の糸口として「行政と協働するNPOの姿勢」について検討しました。その後、各地のNPO支援センターのCEOが議論した内容を基に、取りまとめ委員が8つの項目に再整理して作成したものです。
これらの各項目は、私たちNPOが「社会にとって望ましい協働の姿」を念頭に置きつつ事業を行うために、あえて協働の相手側に対してではなく、自らの姿勢(立ち位置)について描いたものです。
「協働」というのは、事業実施の新たな形であると同時に、複数の組織の関係により成立するものであるがゆえに、これらの項目で全てを語りつくせたとは考えていません。したがって、あくまで「社会的に信頼される協働の姿」を模索するうえでの序章であると考えています。
なお、ここでいうNPOは、NPO法人を主な対象としながらも、それ以外のさまざまな組織形態の市民活動団体を対象として想定しています。

行政と協働するNPOの8つの姿勢

市民の共感と参加を基本とする事業づくりの能力を持ち、それを通じて本当の市民自治を促進すること

NPOと行政の協働事業が行政の直接実施や行政から企業への外注と決定的に違うところは、事業の進め方において、市民の共感を巻き起こし参加を募る、そのような「市民参加型」「市民自治型」の事業を創造できることです。こういった事業を通じて、NPOが市民の主体性を育み発揮する場となり、これまでの「行政お任せ社会」を「市民が自治する社会」に変えてゆくことができます。これこそがNPOならではの価値であり、行政との協働を進める際も、それを基本に据えることが大前提です。逆に言えば、 この部分を欠いてしまえば、NPOが行政と協働していても、実態は企業等の事業者とのかかわりと何ら変わらない、ということになりかねません。

ミッションと協働事業の整合性を考え、事業を展開すること

NPOは企業等と違い、市民が参加し、受益者の視点に立って事業を生み出すことが重要です。そのようなNPOが、自らの活動目的と合わない事業を行政から引き受けることによって、本来行うべき事業がおろそかにならないようにする必要があります。NPOに求められることは、自らの活動目的に沿った事業を適切に行うことであり、万一、その目的に沿わない場合には、目的や社会的意義を支持している人々の信頼を失う可能性があります。行政がNPOに委託したい事業や協力してもらいたい事業内容が、自らの活動目的に合わない場合、NOといえる姿勢が必要です。

行政に依存せず、精神的に独立していること

NPOは地域・社会の実情を理解し、民の立場で行動すべき組織です。しかし、「協働」の名のもとにNPOが行政の事業の下請け団体化している場合があることも事実です。だからこそ、普段から行政の意向にかかわらず、必要とされる事業には独自で取り組むとともに、行政等に政策を提言していく必要があります。 行政に過度に依存しないために大事なのは、精神的に独立し、組織的に自律していることです。それを実現するためには、理事の構成等、組織的にも独立性を保ち、財政的にも行政との協働事業に依存せず、高い専門性を持つことが重要です。

相互のシステムの違いを理解しつつ、解決の糸口を見出していく姿勢を持って努力すること

社会環境やニーズの変化に対して、NPOが前例や慣習にとらわれることなく、対応が比較的柔軟であるのに対し、行政は前例や慣習、書面や手続きなどを重視するため、判断や決定に時間がかかることがあります。このように、NPOと行政では、意思決定のプロセスや慣習など、あらゆる点でシステム(しくみ)や文化が異なるために、協働事業を遂行するうえで、双方の取り組み方にズレが生じる場合があります。その際、NPOは行政が提示する条件や要望を単に受け入れるだけでなく、行政との違いを認識し、理解するとともに、行政のあり方についても変更を求め、解決の糸口を見出していく姿勢を持ち、受益者・市民にとってよりよい成果が得られるよう努力することが大切です。

NPOならではの関与によって協働事業の質を向上できるような専門性・特性をもつこと

「全体の奉仕者」であるがゆえにゼネラリストにならざるを得ない行政に対し、NPOは民間団体として特定テーマのスペシャリストとしての専門性をもち得ます。また、行政は住民(実際上は議会)全体の過半数の賛成がなければ動き出せないのに対し、NPOは自らの気づきと責任で先駆的・開拓的に課題解決に取り組めます。このようにNPOには「新たな公共」の主体として、行政の限界を超える潜在的な力を持っているといえます。さらに、NPOは市民参画の主体であり、市民の自治能力を高め、民主的な社会を実現する核となりうる点で、企業にはない特性を持っています。したがって、行政との協働事業を行うにあたっては、このNPOの専門性・特性をみがき、市民の「自治力」が発揮される、より高いレベルの公共活動を実現するよう努めることが必要です。

ルールの違いを乗り越えるための能力を備えておくこと

双方が協働で事業を進めていくためには、最低限の業務遂行能力がお互いに求められます。また、行政は法律に定められたルールなどに従って事業を行うものであり、行政との協働事業に取り組む場合には、NPOもそのルールに従わなければなりません。したがってNPOと行政が協働事業を実施する場合においては、お互いのルールの違いを充分に理解したうえで、NPOとしても事業進行の管理能力や事務能力・調整能力などを備えておくことが必要です。そうしなければ、単独で事業を行うことでは得られない相乗効果を充分に発揮することはできません。

協働した結果は、市民の共有財産として広く積極的に知らせていくこと

NPOの活動は、多くの人たちや地域にとってプラスにならなければなりません。それ故に行政と協働することが必要になることもあります。協働する事業が、委託金・補助金・分担金等いずれの形態による事業であろうと、協働する目的・経緯・内容・プロセス・経費の使途等々の情報を公開しなければならないのはいうまでもありません。また、他のNPOが代わって行う場合も、他の地域で行う場合も、実践してきたことを共有化することにより、私たちの社会が発展していくことにつながる考えや、協働した成果は、成功・失敗も含めて市民みんなの財産としていくことが必要です。

契約にあたって、対等な立場で交渉する力をつけること

NPOと行政が協働で事業を行うに当たっては、対等な立場で交渉しなければなりません。その交渉力を支えるものが、精神的な独立性や専門性・市民性などで、これまでに掲げた条件です。さらに、お互いの権利や責任の範囲、成果物の帰属や利用方法など、重要な事項について契約書等で明確に定めるべきであり、それには、委託・請負・指定管理等に関する民法・地方自治法・税法及び実施する事業に関連する各種の法知識も必要です。また、着手後も、事業を遂行する上での前提条件が変わる等で計画変更や目標の変更を迫られることがあります。こういう場合も適時に適切な対応ができるよう、判断力や交渉力が必要となります。

別表

「民間NPO支援センター・将来を展望する会」 参加者一覧

*は「行政と協働するNPOの8つの姿勢」取りまとめ委員
※北から都道府県順 所属・役職は2006年11月現在

  • 小林 董信 (北海道NPOサポートセンター 理事・事務局長)
  • 小笠原 秀樹(NPO推進青森会議 理事・事務局長)*
  • 大久保 朝江(杜の伝言板ゆるる 代表理事)
  • 紅邑 晶子 (せんだい・みやぎNPOセンター 常務理事・事務局長)
  • 青木 ユカリ(せんだい・みやぎNPOセンター 事務局次長)
  • 横田 能洋 (茨城NPOセンター・コモンズ 常務理事兼事務局長)
  • 矢野 正広 (とちぎボランティアネットワーク 事務局長)
  • 槙 ひさ恵 (とちぎボランティアNPOセンター「ぽ・ぽ・ら」 事務局長)
  • 越河 澄子 (さいたまNPOセンター 専務理事)
  • 赤塚 和俊 (NPO会計税務専門家ネットワーク 理事長)*
  • 安藤 雄太 (東京ボランティア・市民活動センター 副所長)*
  • 山口 郁子 (まちづくり情報センターかながわ(アリスセンター) 理事)*
  • 手塚 明美 (藤沢市市民活動推進センター センター長)
  • 大島 誠  (くびき野NPOサポートセンター 理事長)
  • 能登 貴史 (NPO・NGOネットワークとやま 幹事)
  • 青海 康男 (いしかわ市民活動ネットワーキングセンター 事務局長)
  • 磯崎 剛  (しずおかNPOセンター 理事・事務局長)
  • 服部 則仁 (ひと・まち・未来ワーク 代表)
  • 今瀬 政司 (市民活動情報センター 代表理事)
  • 早瀬 昇  (大阪ボランティア協会 事務局長)*
  • 水谷 綾  (大阪ボランティア協会 事務局主幹)
  • 実吉 威  (市民活動センター神戸 理事・事務局長)*
  • 吉田 浩巳 (大和まほろばNPOセンター 事務局長)
  • 西川 一弘 (わかやまNPOセンター 事務局次長)
  • 中村 隆行 (ひろしまNPOセンター 事務局長)
  • 畠中 洋行 (高知市市民活動サポートセンター センター長/NPO高知市民会議 事務局長)
  • 長野 孝弘 (高知県社会福祉協議会ボランティア・NPOセンター 所長代理)
  • 古賀 桃子 (ふくおかNPOセンター 代表)
  • 山岡 義典 (日本NPOセンター 副代表理事)
  • 田尻 佳史 (日本NPOセンター 理事・事務局長)*

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