東日本大震災現地NPO応援基金(一般助成・第4期)第1回助成審査結果について

助成先一覧 | 審査総評 | 助成概要と推薦理由|選考結果のご報告(各ページのPDF版)東日本大震災現地NPO応援基金[一般助成]第4期第1回助成の審査を行い、
下記の通り決定いたしました。

助成先一覧

*助成期間:2022年4月1日から2023年3月31日までの1年間
*このほかに助成対象団体のフォローアップ事業として2事業 99万円
助成対象件数:10件  助成総額:475万円(フォローアップ事業費を含む)
*第4期第1回助成は、日本NPOセンターが実施する東日本大震災の支援事業のいずれかのプログラムで支援対象となった団体を対象に実施し、2022年2月7日~2月14日までに応募のあったエントリーを対象に、事務局審査および本審査を行い助成が決定したもの。

審査総評

日本大震災現地NPO応援基金[一般助成]第4期第1回助成 

審査委員(座長) 山崎 宏

1.審査の経過と結果

東日本大震災発災直後の2011年3月に開始した「東日本大震災現地NPO応援基金(以下、応援基金)」は第1期から第3期の助成を通じて、「組織基盤の強化」に重点を置いて進めてきた。その結果、多くの団体が組織基盤整備において成果を出し始めている。

一方で時間の経過とともに復旧、復興期を支えてきた現地のNPOは活動の内容や求められる役割が変化し、自団体の在り方や財源の確保方法など大きな転換期を迎えている。

応援基金も現地NPOにとって、より効果的な組織基盤の強化とは何かを模索し、今回リニューアルを行い第4期として新たにスタートをすることとした。

第4期では、「継続的な組織の運営」を目指し、専門家や運営アドバイザーなど、より専門性の高い外部の人材を活用した組織基盤強化の取り組みを支援する。

第1回となる今回の助成は、2022年1月11日に告知を行った。2月7日~14日の受付期間に11団体からエントリーがあり、2月18日に事務局による事前審査を実施した。

事前審査では、「被災した地域や人々を対象とした自団体の活動の成果や課題を捉え、今後の活動に展開や見通しをもち、組織の課題と組織基盤強化の内容が明確になっているか」の観点から評価を行い、8団体を選出した。その後、8団体には事務局による事前審査で挙げられた課題や検討点を伝え、改めて自団体の組織基盤強化の企画提案書を3月11日までに提出していただいた。本審査会は、審査委員3名が出席し3月23日に開催。その結果、8団体を採択した。

採択となった8団体には、本審査会で示された懸念点や希望を伝え、企画書への反映を再度お願いした。各団体の組織基盤強化事業への期待は、「助成概要と推薦理由」を参照されたい。また、本審査会では、事務局による助成対象となった団体へのフォローアップを目的とした2事業について審査を行い、採択した。

以上の結果、第1回助成では、8団体の組織基盤強化事業と事務局のフォローアップ2事業の合計10件、総額488万円の助成を決定した。

2.助成にあたって

東日本大震災現地NPO応援基金を2011年3月に立ち上げ、多くの方々のご支援をいただきながら、被災者の生活再建や被災地の再生・復興に取り組むNPOへの助成活動を続けて11年が経過した。被災地では、ハード面での復興に終わりが見えてきている一方で、心のケアなどソフト面でのサポートが継続的に必要となっている。

現地NPOは地域のニーズに耳を傾け、地域や被災者ひとりひとりに合わせた支援を継続しているが、2020年から感染が拡大した新型コロナウイルスは各方面に多大な影響を与えた。現地のNPOも例外ではない。NPOの中には一時、事業の核であった集合型のイベントの開催や出店ができなくなったほか、県外からの社員研修や修学旅行の受け入れができなくなった。事業の核を失い大幅な減収で活動だけでなく組織の存続すら危ぶまれた団体もあったほどだ。

そんな中、試行錯誤しながらコロナ禍でも常に変化する被災地の現状に向き合い、様々な課題解決に向けた復興支援活動を行っていることに敬意を表したい。 助成対象となったNPOについては、これまでの実績を基礎に、地域の再生と活性化を目指し、外部協力者の力を最大限に活用して組織基盤強化に努めていただきたいと願っている。

最後に、本審査会を通し、現地のNPOが抱える課題が10年前とは大きく変化していることを改めて認識した。震災からの時間の経過とともに新型コロナウイルス感染拡大によって社会情勢は大きく変化している。社会情勢の変化とともに現地で活動するNPO自身が組織の課題に目を向け、組織基盤強化に取り組まなければならない転換期にある。同時に、応援基金も地域の復興支援を行うNPOの支援のあり方をしっかりと考えていく時期であることを再確認したことを加えておきたい。

<審査委員>
山崎 宏(座長) 特定非営利活動法人ホールアース研究所 代表理事
木内 真理子   認定特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン 理事・事務局長
田尻 佳史    認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 常務理事

[助成事務局]
認定特定非営利活動法人日本NPOセンター

助成概要と推薦理由

組織基盤強化テーマ特定非営利活動法人きらりんきっずに必要な基盤の整備
団体名特定非営利活動法人きらりんきっず
主な活動地域岩手県 陸前高田市
推薦
理由
 本団体は、地域子育て支援拠点事業「おやこの広場きらりんきっず」の運営を通して、おやこの居場所づくりを行っている。また、子育て家庭の交流の場を提供し、交流の促進、相談、援助、地域子育て情報提供、各種講習等の開催をしている。
 活動を継続する中でスタッフの人数も増え、年齢層や働き方も多様化している。今後の団体の継続と質の向上を図るうえで、スタッフが働きやすいよう職場環境の整備が不可欠となっている。
今回の組織基盤強化では、外部の専門家の伴走を受けながら就業規則等の整備及び付帯する規程等の整備を行うとともに運用オペレーションの確立に取り組む。
本団体に合った職場環境の整備を行い、団体の継続と質の向上を図ることで、子育て当事者の目線を大切に、子どもを中心とした一人ひとりが大切にされる豊かなコミュニティづくりにつながることを期待したい。。
組織基 盤強化テーマ人材評価制度及び給与体系の再構築
団体名認定特定非営利活動法人桜ライン311
主な活動地域岩手県 陸前高田市
推薦
理由
 本団体は、東日本大震災で発生した津波の最高到達地点に桜を植樹し、津波の教訓を次世
代に伝承する活動を行っている。また、植樹会や講演活動を通じて、地域だけでなく全国に
向けて震災で得た教訓や減災についての啓発活動等に取り組んでいる。
活動には地権者との交渉、桜の植樹、その後の管理など、多くの手間と長い年月が必要となる。中長期的に組織運営を行うために、安定した人材の確保が不可欠であるが、安定した雇用には職場環境ややりがいの他に適切な報酬も重要になり、勤続年数や職責、業務に対する成果を評価する仕組みと給与体系の整備が必要となる。
今回の組織基盤強化では、外部の専門家の協力のもと、人事評価と給与体系の再構築を行う。
組織基盤強化が行われることで安定した人材の確保と継続的な活動につながり、本団体が目指す「災害で生まれる悲しみを2度と繰り返さない未来を創る」の実現と植樹された桜並木が育ち地域の財産となることを期待したい。

組織基
盤強化テーマ
情報の集約発信力強化による市民活動支援力向上
団体名特定非営利活動法人アスイク
主な活動地域宮城県 仙台市
推薦
理由
 本団体は、2011年3月に任意団体として活動を開始し、現在は宮城県内24市町村で
生活保護家庭、ひとり親家庭等の子どもを対象とした学習、体験の機会づくり、家庭環境
も含めた生活支援等に取り組んでいる。
地域に根差した活動を続けてきた結果、年間1,000以上の家庭を支える規模に発展した一方で、事業・受益者の拡大に情報管理のシステムが追いついておらず、業務の非効率化、事
業・担当者間での情報共有が課題となりつつある。
今回の組織基盤強化では、専門家の伴走を受けながら情報管理システムの導入と運用オペレーションの確立に取り組む。
震災直後から被災地で行われてきた学習支援では、貧困問題やヤングケアラーなど震災前は表面化していなかった新たな課題とも向き合う必要が出てきている。
組織基盤強化によって、バックオフィスの体制が整えられ、複雑化する子どもたちを取り巻く課題に継続的に取り組むとともに、同じように情報管理に課題を抱える他のNPOの参考になることを期待したい。

組織基 盤強化
テーマ
震災支援団体からの脱却。市民・地元企業との新たな信頼関係づくり
団体名認定特定非営利活動法人こどもむげん感ぱにー
主な活動地域宮城県 石巻市
推薦
理由
 本団体は、被災した石巻市において、児童を対象に遊び場・居場所を提供するプレーパーク事業や学校復帰を目的とせず、社会的自立をサポートするフリースクール事業等に取り組んでいる。
震災から11年、ハード面の復興が進み新しい街ができていく中で、震災以降取り組んできた子どもを取り巻く課題はより複雑化している。複雑化する課題に対し、今後は、緊急支援を行う組織から地域の社会課題に取り組む組織へと転換し、継続的に活動する必要がある。
しかし、震災復興期から活動していることもあり、新しい街が整備されていく中で、地域の方々が抱く震災支援団体というイメージが逆に不信となる危惧を抱えている。地域との信頼関係を築き市民や地元企業からの寄付を中心とした資金調達を行うため、組織としてのブランディングが急がれる。
今回の組織基盤強化では、寄付者の共感を得る方法や働きかけのノウハウを外部講師から学ぶとともに、寄付に連動するHPやSNSの見直しとオペレーションの構築に取り組む。
子どもの支援は、地域の未来を考えた際にも重要である。支援では長い時間をかけ子どもと保護者にも寄り添う必要があることから、今回の組織基盤強化が地域からの共感と信頼を得るきっかけとなり、継続的な活動につながることを期待したい。
組織基
盤強化テーマ
Notionを活用した本部事務局業務の改善と可視化
団体名特定非営利活動法人TEDIC
主な活動地域宮城県 石巻市
推薦
理由
 本団体は、宮城県石巻市において、経済的に困窮している、社会的に孤立している子ども
たちに対して、地域の力を借りながら、学習サポートや生活支援、相談などを中心とした活
動を行っている。
設立時から、日々の業務に追われ事務局専任スタッフを置かず運営してきたことから、組
織の体制が強化されず、PDCAサイクルが機能していない現状がある。
今回の組織基盤強化は、外部アドバイザーの伴走を受けながら、PDCAサイクルの確立、
進捗管理と業務構造の可視化、労務及び総務、経理等の理解の深化に取り組む。
多くのスタッフやボランティアがかかわり運営する中で、バックオフィスの整備は重要である。役員だけでなく現場スタッフが、バックオフィスの課題は組織全体の課題と認識し、
組織基盤強化に取り組むことを期待したい。
組織基
盤強化

テーマ
寄付車を活用した支援活動の継続発展のための組織基盤強化事業
団体名一般社団法人日本カーシェアリング協会
主な活動地域宮城県 石巻市
推薦
理由
 本団体は、宮城県石巻市を拠点に寄付車両を活用し、車をシェアして支え合う仕組みを
地域につくるコミュニティ・カーシェアリング事業を7府県23地域で展開しているほか、
生活困窮者向けの低価格カーリースや、NPO や移住者に向けてソーシャル・カーリース、
自然災害時に被災者に向けて貸し出す車を確保する災害時返却カーリースなどを実施して
いる。
また、全国で発災する自然災害の被災者や被災者支援団体に車両の無償貸出支援を行うモ
ビリティ・レジリエンス事業にも取り組んでいる。
震災から11年が経ち、現場のニーズに対応しながら取り組みを続けてきたが、被災地の状況が変化したことや事業が全国に拡大したことで、事業の継続のため組織として大きな転換期
になっている。
課題は、車両や資金調達の仕組み、組織の形態や名称、理事体制や定款の内容など、組織
にとって根本的なことであり、難しい判断が必要となるため日々の業務に対応しながら自前
で行うことが厳しい状況にある。
今回の組織基盤強化では、組織名称や法人形態、組織体制・定款変更について外部のアド
バイザーや専門家と意見交換を行い、自組織に合った体制の整備に取り組むほか、車両寄付
を活用した取り組みを行う海外の財団にオンライン視察を行い、車両と資金の調達ノウハウ
を学ぶ。
寄付車両を活用したコミュニティ支援や災害時の支援は国内に前例がなく、先進的な取り
組みになる。組織基盤強化を行うことで、活動がさらに広がり、移動弱者や全国で発災する自然災害の被災者や被災者支援を行う団体の支援につながることを期待する。
組織基
盤強化

テーマ
専門家招聘による福祉サービスのリスク管理体制整備と強化
団体名特定非営利活動法人ポラリス
主な活動地域宮城県 山元町
推薦
理由
 本団体は、宮城県山元町を拠点に、障害者就労継続支援B型事業所の運営や障がい児などの相談援事業に取り組んでいる。公的サービスにおける支援にとどまらない、柔軟かつ
迅速な支援ができる体制づくりや障害福祉に関わる様々な「人(専門スタッフ、当事者、家族、地域住民等)」の学びや経験の場を作り、地域の障害福祉のエンパワメントを目指している。
国の指導で福祉を担う団体の規模にかかわらず、災害(サイバー含む)や感染症対応、虐待予防など様々なリスク管理を義務付けられることもあり対策が急務である。
しかし、小規模団体であるため現場と総務の両方の業務を代表と事務局長が担っているほか、法務面で専門的な知識に乏しいため自分たちだけでこれらを整備していくのは困難である。
今回の組織基盤強化では、外部専門家の協力のもと、リスク管理体制の整備とオペレーションの確立に取り組む。
福祉事業所を運営するうえでリスク管理体制の整備は重要であり、他団体の参考にもなる。組織基盤強化を行うことで、利用者や職員の安心安全につながるとともに、同じよ
うに福祉事業所を運営する団体への波及も期待したい。
組織基
盤強化

テーマ
未来のこども達のためにわたし達にできることを計画し運営できる組織作り
団体名特定非営利活動法人青空保育たけの子
主な活動地域福島県福島市
推薦
理由
 本団体は、福島県福島市において、2009年から野外保育に取り組み、震災後の2011年
10月からは、山形県米沢市で認可外保育施設の運営などを行っている。放射能汚染を危惧する福島の児童を開所日は米沢市まで毎日送迎しているほか、米沢市への避難者の児童などを中心に受け入れている。
しかし、非常勤職員が多く、日々のスケジュールをこなすだけで精一杯な現状がある。
また、多様なニーズがある中で、団体に求められていることも変化していることから、
団体の目的の明確化、人材や資金の安定化のための事業計画とその実現のための洗い出しを行う必要がある。
今回の組織基盤強化では、外部アドバイザーの伴走を受けながら、ロジックモデルの検討、目的・ミッションの明確化、人材や資金を安定させるための事業の構築に取り組む。
震災以降、放射能汚染を危惧する保護者に寄り添い、認可外で野外保育を継続する
他にはない活動をしている本団体が、組織基盤強化を行うことで組織の方向性を明確化し、計画的な資金調達と人材育成によって、継続的に活動していくことを期待したい。